Deejayのオリジネイター、U-ロイを引き連れて7月に行われた「Live On The Blood & Fire Sound System」は、70年代のDeejay創成期のサウンドと現在を結びつける貴重なイヴェントだった。そのBlood & Fireの創設者の一人であり、様々なジャマイカン・ミュージックの評論でレゲエ・ファンには絶対的な信頼を得ている評論家、Steve Barrowにインタビュー。

80年代からレゲエを聴いている人ならば、80年代後半にあなたが選曲しライナーノーツも書いていたTrojanからの様々なコンピ盤やベスト盤で名前を知り、誰もが信頼すべきレゲエ評論家と思っているはずですが…。
Steve Barrow(以下S):Trojanは自分にとって学習の場だったよ。音楽ビジネスの内側を見れたのが一番の収穫だった。レーベルがどういった音やミュージシャンを選んで、それをマーケットに出していくかという部分に携わる事ができたからね。87年から3年近くTrojanで働いて計55枚のスカやロックステディのコンピレーション・アルバムを手掛けてきた。でも、Trojanには節度や道義がなかったから辞めたんだ。その後、クリス・ブラックウェルのもとで『Tougher Than Tough - The Story Of Jamaican Music』というボックス・セットを僕が作ったのも知ってるだろ? クリスは音楽を愛しているし、豊かなソウルを持っていたよ。

その後、過去の埋もれていた名作等を再発するレーベルBlood & Fireを94年に立ち上げる事になるのですが、その記念すべき第一弾がキング・タビーがDeejay達と組んだ作品をまとめた素晴らしいコンピレーション盤『The Dreads At King Tubby's - If Deejay Was Your Trade』でしたね。つまりこの作品こそがシーンやレコード業界に対するあなたの意思表示だった訳ですよね?
S:レコード屋でもオムニバス盤のコーナーがこれほど充実しているジャンルは他にないけど、私はそのコーナーに置かれない様な様々なアーティストが参加する作品を作りたいと思ってたんだ。それでタイトルを『The Dreads At King Tubby's』にしたんだ。Deejayがドレッドだった事もあったのと、マーケティングを考えた上での決定だ。実際、私はタイトルがコンテンツをどの様に表現しているかを考えるのが好きなんだ。ドレッドロックス達とキング・タビーのコラボレーションからどのような音が生まれたのか人々は想像するだろうし、その想像と実際の音との比較というのはとても面白いプロセスだ。シャバ・ランクスは「マイクがDeejayの道具であり、キング・タビー等のエンジニアにとってはアンプ、ミキサーが道具だ」と言っていたが、彼の言葉通り、マイクとエンジニアの機材がダンスホールを揺さぶるような作品になったはずだよ。

キング・タビーについてはどうお考えですか?
S:キング・タビーはアンプ等の電子機材を新たに使う方法を人々に示したパイオニアだ。機材でミキシングをする事で、新たな音を生み出している。機材を使う上で自分のルールを設定し、それが彼のアーティストとしてのカラーとなっている。「Version」という新しいジャンルを確立したのも彼だ。音の構造をよく知り、電子機材の事をよく知っていた彼だからこそ、元の素材から新たな音の構造を作り出す事ができたんだ。キング・タビーはジャマイカからひとつの新たな文化を作ったと言えるだろう。

それでは、Deejayについては?
S:ダンスホールが生まれて以来、Deejayはジャマイカの社会でも独特なポジションにいる。ミュージシャンの様に楽器を演奏する訳ではなく、シンガーとして歌う訳でもないが、レコードをかけ、しゃべる事でメッセージを存分に伝え、大きな影響力を持ち続けてきた。U-ロイ等を見ても分かるだろう、声のタイミングがどれだけ重要で、そこに説得力、メッセージ性が生まれているかという事が。ダブのリズムが客を踊らせ、Deejayのリリックが客の心に触れる。リリックは社会へのメッセージであったり、社会批評であったりする。一般市民が何を欲していて、社会がどのような状況で何が問題なのかをDeejayが叫び、人々が想いや欲求を共有する事になる。

DeejayのオリジネイターであるU-ロイについてはどう思ってますか?
S:彼のクリエイティヴィティは特別だ。既存の表現に抵抗して全てを変えてしまったと言えるだろう。U-ロイの前にもDeejayはいたが、レコードをかけてホールを煽っていたとしても、レコーディングまでした人はいない。U-ロイがレコードを作ったことで、Versionの存在価値が変わる事になった。U-ロイは成功者であり、革命者であり、特別な存在だ。彼の後ろでレコードをプレイできるなんて最高だよ。そんな事ができるなんて想像すらしていなかった。

今回はそのU-ロイを引き連れてBlood & Fire Sound Systemとしての来日ですが、サウンドマンとしてのあなたも非常にユニークでした。
S:自分の事をサウンドシステムのオーナーだとは思わないけど、Blood & Fireを始めた時はお金がなかったので、レゲエをプロモートできる新しい方法がないかと考えたんだ。その時、U-ブラウンをジャマイカから呼んで、彼のレコードのプロモーションとBlood & Fireの立ち上げを兼ねようとしたんだ。デニス・アルカポネやトリニティ、ランキン・ジョー等、色々なDeejayが来てくれた。シンガーではホレス・アンディもいたね。それで色んなDeejayやシンガーと多くの国を回った。レゲエの魅力や、アルバム、アーティストの魅力をダイレクトで人に伝える事ができる最良のプロモーション方法だよ。
[協力:Beatink/Udagawa Lovers Rock/中島良平]