前号に引き続き、OVERHEATのボス=石井“EC”志津男監督作品『Ruffn' Tuff』をご紹介しよう。今回は撮影/編集を担当したアルティコの上山亮二と松田正臣も同席し、撮影秘話から印象的なエピソード、苦労話(?)までをたっぷり語ってもらうことになった。



●撮影期間はどれぐらいだったんですか。
EC:10日間。ジャマイカのことを知ってる人なら、10日間でここまで撮ったのは凄いと思うはずだよ。カメラマンの石田(昌隆)さんに言われたんだよ、「1日に3つアポを入れてるけど、無謀だよ」って(笑)。

●登場人物って20人強ですよね。10日間で撮影するとなると、1日2人以上……。
EC:しかもさ、この映画用にレコーディングまでしてるんだから(笑)。新たにオリジナル・アーティストで録り直したりしてて、10月6日にはそのサントラも出るから。

●撮影中の苦労は?
上山亮二:撮る段階になっての苦労はそんなにないですよ。
松田正臣:アーティストがいつ来るかわかんないっていう心配はあったけど(笑)。
上山:ただ、ジャマイカって光が凄く強いから、本当に綺麗に撮れるんで、撮影隊としてはその喜びのほうが大きかったですね。最初の段階でリロイ・シブルスの海のシーン(註:リロイが夕方のビーチで、ギターをつま弾きながら「I Shall Be Released」などを歌う感動的なシーンのこと)を撮ったので、あれでもう嬉しくなっちゃって(笑)。

●リロイが歌ってるとき、周りで楽しそうに身体を揺らしてる人たちがいますよね。
松田:あれ、自然に集まってきたんですよね。
EC:TVのヤラセ的なところは一切ないよ、ホントに。雨が降ったら雨撮って、みたいな感じ。ジャマイカに来てジタバタしてもしょうがないの。

●ジャマイカに行ってアーティストと会えない不安はなかったんですか?
EC:正直言ってね、出発の2日前までは気にしてなかったの。「ジャマイカはそういうもんだ」って思ってたから。一応さ、会いたい人をリストアップしたんだよ、60人ぐらい。それを行く直前に見てたら具合が悪くなって吐き気がした(笑)。「誰がいないといけない」っていうことじゃないのね。「誰がいいことを喋ってくれるか」ってことだから。撮れなかった人もいたけど、もしも撮れてたら彼らもいいことを言ってくれてたと思うし。はっきり言ってさ、エンドレスなわけ。撮ろうと思ったらいくらでも対象はいるわけだから。

●島外に住んでるアーティストで、たまたまジャマイカにいた人もいたんですよね。
EC:ボブ・アンディはマイアミだし、アルトンもイギリスにいることが多いね。U・ロイやストレンジャー・コールもちょっと前はカリフォルニアに住んでたし、ディーン・フレイザーにしたってルシアーノのツアーで海外に行っちゃってたりするんだけど、何故かみんなジャマイカにいたんだよ。ラスタの人だったら「ガイダンス」って言うんだろうけど(笑)。

●チャンネル1のスタジオ跡地を、タクシーのなかから撮るシーンがありますよね。もの凄い緊張感で……。
上山:タクシーをチャーターしたんですけど、運ちゃんとグラディ(グラッドストーン・アンダーソン)が怖がってるぐらいだからホントにヤバイところなんですよ。人は誰もいないし、オバさんが「昨日もひとり殺された」って言ってたし……。
EC:撮ること自体がヤバイんだよ。人がいないから逆に撮れてるわけで。ジャマイカじゃ、なにがあってもおかしくないからね。

●グラディが弾いているピアノもいいですよね。
EC:そうなんだよ。あんなピアノ、ないよ! あれはアクエリアスで他のミュージシャンが使ってた奴を借りたんだ。ピアノ自体に存在感みたいなものがあるよね。

●グラディの存在は、この映画の軸になってますね。
EC:グラディとは20年ぐらいの知り合いだけどさ、やっぱりミュージシャンズ・ミュージシャンみたいな感じなのよ。ディーン・フレイザーとかも凄くグラディのことを尊敬してるし。だから、前からグラディを軸に何かを記録していくって考えがあったの。
松田:グラディだけは何度か撮ったんですけど、やっていくうちに段々喋ってくれるようになってきて。
上山:最後はムチャクチャ元気(笑)。

●アルトンにせよ、カールトン(・マニング)にせよ、みんなインタヴュー中に歌い出すのが印象的でした。
EC:ジャマイカ人のレコーディングは楽譜とかがあるわけじゃないからね。ベースラインとかも口で歌うんだから。歌うことに関しては、普通の会話みたいなものなの。ああいうのは映像ならではだよね。

●ECさんの監督ぶりはどうでした?
松田:普通の映画とは全然違う作り方をしてると思うんですよ。監督と言いながらECさんが車の運転もしてるし(笑)。ECさんから「こういう絵を撮れ」とか「こういう音を録れ」っていうことは一切なかったんです。
上山:ECさんのなかでは映像に関するこだわりもあると思うんですけど、「今回はそんなことより……」っていうスタンスだったので(笑)。もちろん、こだわるところはあると思うんですけど。
EC:細かいそういう部分でエンドレスになっちゃうのはイヤだったんだよ。絶対に必然性のあるものを作りたかったから。

●トータル35時間のテープを80分に編集する作業って大変じゃないですか?
上山:そうですね……(笑)。ひたすら観て、シーンを書き出して。
松田:台本があって作ってるものじゃないですからね。「これ、出来上がんのかな?」って思ったときもあったし。人によって言ってることに矛盾があったりするじゃないですか、でもそれを矛盾は矛盾として見せようとしました。

●スカの誕生の頃のことに関しても、それぞれ言ってることが違いますよね。人によってそれぞれ解釈が違うっていうことなんですか?
EC:いや、解釈っていうよりも、スタジオがいくつかあるわけですよ。メンバーはクロスしてても全員が一ケ所にいたわけじゃないし、それぞれのスタジオにいた奴が自分らが最初にやったと思ってる。ただ、グラディはどのスタジオでもやってるわけ。ほら、ジャッキー・ミトゥーのことを「自分の生徒」って言うシーンがあるじゃない。昔、ルーツ・ラディックスとグラディでレコーディングしてたとき、グラディがフラバ(・ホルト)にコードを教えながら、「スクールボーイ!」って怒鳴るんだよ(笑)。フラバも凄いベーシストだよ、ホントに。それを横で見てて、昔からこうしてやってきたんだなぁと思ってさ。昔はピアノを弾ける奴なんてジャマイカにはそんなにいなかったんだから。

●そんなグラディもどんどん歳を取っていきますよね。スカ誕生当時のシーンについて知っている人たちもだんだん少なくなっていくし。そういう意味で、10〜20年後になったらさらに意義が出てくる映画だと思うんですよ。
上山:そうですね。向こうにいる間もメロディアンズのブレン・ダウを撮りたいって言ってたんですけど、結局帰ってきたら亡くなっちゃいましたもんね。

〈次号はECと石田昌隆氏との対談を予定してます〉


「Ruffn' Tuff」
O.S.T.
[Overheat / OVE-0100]