1999年、一夜限りの本誌200号記念イヴェントのために結成されたThe Dub Station Band。そのリハーサル時の模様を収めた秘蔵音源を発掘した『In The Studio』が昨年リリースされたのをきっかけに、パーマネントなバンドとして新たに始動。そして、こだま和文としては実に10年ぶりの“バンド”作品となるアルバム『More』が完成した。

 こだま和文が歌っている。昨年より活動を本格化させている自らの“バンド”=The Dub Station Bandを従え完成した、待望の新作『More』。そこに収録された一曲が、リコ・ロドリゲスを彷彿とさせるようなあたたかみのあるリラックスした歌声が聞けるネーネーズ「黄金の花」のカヴァーだ。こだまには、今、自分の声で歌うことに必然があったのだろう。

 「声を出したくなったんだ。ずっと楽器だけでやってきたけど、それだけじゃ俺も息苦しいし、段々といいバランス考えながら(マイクを持って)声を出すことが増えてきて。すごいゆっくり進行してきたんだ(笑)。で、25年目にしてやっと歌だよ」

 やっほー!バンドのリズム隊やドリームレッツ/川上つよしと彼のムードメイカーズで活躍する秋広真一郎ら、こだまよりも若い世代のレゲエ・ミュージシャンが集ったThe Dub Station Bandで展開されるのは、実に活き活きとしたバンド・サウンド。そのフレッシュさに呼応するように、こだまのトランペットはこれまでに以上に若々しく、まっすぐな鳴りをみせている。

 「彼らと一緒にやっている理由……なんだろう? 一生懸命さがあるところかな。(今のメンバーよりも)達者な人たちはいっぱいいるけど、彼らにはもくろみがないし、ピュアなんだよ。彼らがピュアなぶん、自分が自分でいられるし、自分が変化していける」

 収録された楽曲の多くはこだまにとってのスタンダードな楽曲のカヴァーや、ミュート・ビート時代のナンバーの再演がほぼ全曲を占める。

 「1年間(バンドで)ライヴをやってきて、いいことをやってるから形に残したいと思ったんだよね。ライヴでやってきて馴染んだ曲をアルバムにするっていうのは、自然な気がするんだ」

 精力的なライヴ活動で得た手応え。それはアルバムの“音”にも表れている。

 「今回のアルバムは、エフェクトが少ないんだよ。ダブっていうのは、ある種の異空間を狙うもの、別の雰囲気を醸し出すものな訳だけれど、今はメンバーがいて、出している音の魅力のほうが大きい。だから、今、音を出している居場所から別な場所を見せたくないんだ。あんまり音をひん曲げたり自分の居場所をリミックスしたくないなって、そういうのを再認識した。どこにも行けねえぞって。それになんかね、幻想性とかさ、そういうのが自分に通用しなくなってきてんだよ。テレビでキツいニュースを観るにつけ、自分の身の回りで、音楽やってる人だったり知り合いだったり、今のメンバーとこういうことをやってたり……人がいて、そこで起きていることのほうが魅力あるんだ。今はそういうのを大切にしたい。演奏の善し悪しは置いといて、一人一人がやってること、そのものが一番いいなって。レコーディングをして、新しい魅力を知ったよ。俺自身も変わったよ。自分の中で、もっとナチュラルな音を出したいって思うようになったのはね」



「More Dub Station Band」
Kodama & The Dub Station Band
[Delphonic / GNCL-1072]