日本のレゲエ界において絶対的信頼を得ているホーム・グロウンが7/19、4枚目となるアルバム『Respect To The Riddim』をリリース。彼らの足跡を改めて確認すれば、本作がなぜ生まれたかが分かるはずだ。

 国内最強のレゲエ・バンド、ホーム・グロウン。
 彼等がそう称される由縁は、単に演奏力が高いとかいったレベルのものではない。それは、90年代末の彼等の登場が、現在のジャパニーズ・レゲエ・シーンの形成を促したといっても過言ではないほどの影響力を有しているからだ。否定の仕様がないその事実が、誇張無く彼等を「最強」たらしめている。

 ホーム・グロウンがレゲエ界で担う役割とは、通常の概念で語られる「バンド」の活動と大きく異なる。ほとんど全てと言っていいレゲエ・フェスでバックを務め、アーティストからの絶対的な信頼を得、その信頼は音源制作への協力要請へと繋がっていく。そしてそれら一連の活動は、例えそれがホーム・グロウン名義のレコーディングであったとしても、基本的、かつ徹底的に、マイクを持つ者のための行為なのである。そのことが、彼等の最も特異な部分なのだと思う。

 誤解を恐れずに言うなら、彼等の登場まで、サウンドの現場主体で活動するアーティストと、ここまで多くのリンクを持てたバッキング・バンド(もちろんV.I.Pバンド、ラガマティックスなど、優れたバンドの存在は多く挙げられるが、ニュートラルな立ち位置で、広く、という意味で)が居なかったということだ。そしてそれを実現させたのが、ホーム・グロウンの持つ驚異的な適応力と、完成度の高さだと思う。リハーサルが全然やれてなくても、ホーム・Gがショウを成功させてしまう。少々のトラブルや運営上の不備があっても、ホーム・Gがイベントを実現させてしまう(もちろんこの背景には、彼等に常に帯同するエンジニアリング・スタッフの存在も忘れることは出来ない)。「セレクター感覚でバックを任せられるバンド」。彼等はそのことに対し自覚的だったはずだ。そんな時代の要請に応える形でホーム・グロウンは登場した。そして夏のレゲエ・フェスは全国各地で始まっていったのだった。

 彼等とシーンとの接点はパパ・ユージとの出会いにあったという。バンドのキーマンであり、ベースのTancoは、当時のことを「ユージと知り合うまで、国内シーンを知らなかったし、意識することすら無かった」と語る。ホーム・グロウンのモデル的着想は、90年代、ジャマイカでのビッグ・ショウのほとんどを取り仕切り、圧倒的な人気を誇ったバンド「サジタリアス」にあると見ることが出来るが、Tancoのヴィジョンは、「そうした存在を目指す」という戦略的思考というより、「いつか日比谷野音で日本人だけでバンド・ショウを」という、もっとピュアな「夢」的なイメージであった様だ。その「夢」の実現のため、彼等は活動を加速させる。

 パパ・ユージとの出会いを経て、96年頃から、ホーム・グロウンは葉山オアシスから外に出ていく。山下公園の向かいに位置していたライヴ・ハウス、チャリーズ・バー(当時)での定期ライヴ、そしてその定期ライヴのスペシャル版として、横浜のクラブ・ヘヴン(当時)で開催されたイベント「Flex」が彼等を一躍有名にした。そして本格的にショウのバック・バンドとして、彼等を最初に招聘したのは大阪勢だったという。「Slang 98」で、多くのアーティストのバックを務めたのを皮切りに、イベントへの出演依頼は急増。「横浜レゲエ祭」、大阪の「Highest Mountain」、豊橋の「Reggae Festa」、後に日比谷野音での「Soul Rebel」へと発展した川崎クラブ・チッタでの「Ruff Rider」と、彼等がショウには欠かせない存在となるのには時間はかからなかった。そしてその活動は音源制作へと幅を広げていく。

 幾つかのプロデュース・ワークを経て、02年にホーム・グロウン名義で発表されたメジャー・デビュー・アルバム『Home Grown』は、それまでの彼等の活動が凝縮された、トップ・アーティストのみをライン・アップした内容で、ジャパレゲのクラッシックとして大いに話題となった。そしてオリジナル・アルバムとしては、03年の『Grown Up』、04年の『Time Is Reggae』。この他にもリミックス&外仕事集の『High Grade Works』、サウンド・トラック『鳶がクルリと』、既発表オケを再利用した若手中心のコンピレーション『Clone Of Grown』と、精力的に作品を発表。CDセールスの分野でも、彼等の名は、レゲエ界のトップ・ブランドとなっていったのだった。

 そしてオリジナル・アルバムとしては2年振りとなる4作目の今作『Respect To The Riddim』である。本誌の名前でもあり、「リズム」のジャマイカ方言である「リディム」とは、アーティストの歌うバック・トラックのことでもあり、レゲエや、音楽そのものを指しても使われる。ショウのバック・バンドとして現在の地位を築いた彼等が、1年のインターバルを空けての今作のタイトルに『Respect To The Riddim』と銘打ったのには、心機一転、「原点回帰」の意味が込められているのだろう。参加アーティストは、プシン、ムーミン、リョウ・ザ・スカイウォーカー、マイティ・ジャム・ロック、ユードー&プラティ、ヨーヨー・C、ジュニア・ディー、パパ・ユージ、H-マン、今野英明らといった、純粋にレゲエ・アーティストのみを起用。これまでのオリジナル・アルバムで必ず企画されていた他ジャンルとのコラボは無くなった。レゲエだけで勝負。

メジャー・フィールドとの折り合いを模索してきた彼等の自信と余裕が表れである。それは、2管のホーン・セクションに、ギターのノダチンを加えた9人編成の一発録りで録音された12分以上にも及ぶ、時代に逆行するインスト曲「Zimboo Zin」が、アルバムのラストにさり気なく収録されていることからも伺える。本来、「ボブ・マーリー生オケ大会」のバック・バンドとして、ボブの全曲を演奏出来、アフリカや、カリブ、ラテンまでもこなすことの出来るバンド、というホーム・Gの素顔をチラッと覗かせているのである。これを自信と余裕と言わずして何と言おう。

 いよいよ本番である。多くの優れた作品に恵まれた豊作の今年のジャパニーズ・レゲエ・シーン。各地のフェスティヴァルの規模の拡大も進み、さらに動員数を伸ばしていくことだろう。地球温暖化を身を持って感じずにはいられないほどの、クッソ熱い熱気の中、今年もレゲエ軍団が列島を縦断する。その原動力、ホーム・Gと共に。


「Respect To The Riddim」
Home Grown
[Knife Edge / Overheat]
初回盤 PCCA-02270 / 通常盤 PCCA-02271