ラップを初めて20年という歳月が経ったTwigyがソロとしては3年半ぶりとなるアルバム『Twig』をリリース。タイトル通り、日本語ラップの「真実」、そしてもちろんこの社会の「真実」を射抜く言葉の洪水。ただ本作であっても天才によるひとつの通過点に過ぎない。

 1988年にTwigyはDJ HazuとBeatkicksとして活動を開始した、と書いても、今の読者には、当時、若い人間がヒップホップ・ユニットを組むということがいかに冒険に満ちたものであったか、想像するのは難しいだろう。

 TVにヒップホップの情報はなかったし、あってもほとんどがさらっと流されている情報だったりした。もちろん、ランD.M.C.が来日した時タモリの番組には出ていて、ラップを披露していたり、とんねるず(コメディアン)がホストをつとめていた深夜番組でブレイク・ダンスのコーナーが1980年代半ばにはあったりした。だが、そういうことと、真剣にヒップホップを追求していく、自分の人生をヒップホップに賭ける、というのは、またまったく別の話だ。

 この時期は日本のヒップホップにとって多くのことが起きていた時代で、その後。ライムスターの宇多丸師匠の言う、いわゆる『日本のヒップホップ暗黒時代』が来る。この暗黒時代に何も起きていなかった訳ではない。逆に、ユー・ザ・ロックは自分たちでクラブをオーガナイズし、マイクを握る場所を自分たちで作り上げた。TwigyはMuroとMicrophone Pagerというグループを作っている。このグループは、いわゆるNYCのハードコアなヒップホップに影響を受けたものだが、そうしたグループが日本のシーンに大きな波紋を呼びかけたのも、今では説明がいるほどだ。ここでは、その過程は省略する。ただ、彼らの作ったアルバムは『Don't Turn Off Your Lights』を聞いてほしい、と書いておこう。

 Twigyというアーティストは、自分の影を残していくのだが、それが半ば意識的なのか、そして半分はそういう天性の才だと思うのだが、型にはまることをよしとしないのである。言うまでもなく、ヒップホップが産業として大きくなったのは、「型」にはまってからで、Twigyは、それを次々と変えていく。それは、天才的な彼の才能によるものなのだが、天才のすべてが努力によってなされているのだから、彼の20年間は、大変エキサイティングであり、労苦も多かっただろう。

 「今、ヒップホップって女のものになっているような気がするよ。作り方がわかってきちゃってような人間も多いし。ビッグ・ダディ・ケーンがかっこいい、とかビズ・マーキーがかっこいい、とかそういうことじゃなくなってきたから。好きになる部分って、人によって違うのに。掘り下げると、つきつめると、違ってくる。理屈抜きで、うわーってなっちゃうところ、それはサーカスで大技を見た時とちょっと似ている感覚だと思うんだけど」

 そして、Twigyというアーティストは、デビューから最新作『Twig』まで、ルーティンではない、大技を見せてきたし、聞かせてきたのである。並大抵のことではないと思う。
 彼の次の20年に乾杯しよう。


「Thing Twice」
Twigy
[東芝EMI / TOBF-5474]

「Twig」
Twigy
[東芝EMI / TOCT-25279]

DVD
CD