2006年1月28日土曜日、ブレン・ダウ逝去。ソロとしての知名度こそ高くはなかったが、彼がリーダーをつとめたメロディアンズは、ロック・ステディ〜初期レゲエ時代のジャマイカ代表する存在だった。享年59才という短すぎる生涯を駆け足で振り返る…

 いつの日も、大好きな人の訃報に接するとき、何ともいえない感情にとらわれるものだ。ジャマイカ音楽愛好家の僕は、この数年、幾度となく悲しい思いをしてきた。昨年だけでも、ジャスティン・ハインズ、ジュニア・デルゲイド、クランシー・エックルズ、ジェニファー・ララ、ローレル・エイトキン…。ジャマイカの平均寿命は推計で75才を超えるというのに、ミュージシャンの早世ぶりは際だっていないだろうか?

 2006年1月末、また訃報が届いた。ブレン・ダウ、死因は心臓発作と見られている。まだ59才という若すぎる死であると共に一番小さい子はまだ4才だったという事実が悲しみに追い打ちをかけ、さらに胸を打つ。

 ブレン・ダウという名前は、日本ではオーバーヒートのサポートによりアルバム『ミラクル』の発売や来日公演を果たすなど親しみをもたれている存在だが、お世辞にも知名度は高くない。しかし、彼が所属していたコーラス・グループ、メロディアンズと彼を結びつけて考えるとき、その存在感はとても大きなものとなる。

 メロディアンズは、ダウとトレヴァー・マクノートン、トニー・ブリヴェットの3人組。彼らは60年代初頭にヴェア・ジョンズが運営していたタレント・オーディション、オポチュニティ・アワーを通じて知り合い、共に活動をはじめた。初録音はコクソン・ドッド制作の「レイ・イット・オン」で、この曲は初期のアイランドからイギリスでシングル(WI-3014)としてリリースされている。コクソンの下を離れた彼らは、ロック・ステディ全盛期にデューク・リードの下で「エキスポ67」「エヴリバディ・ボーリング」「ユー・ドント・ニード・ミー」さらにはソニア・ポッティンジャー女史の下で「ア・リトル・ナット・トゥリー」など多くのヒットを放ち、ジャマイカで注目の存在となった。

 このグループの持ち味は、バリトンのブリヴェットとテナーのダウという2人の傑出したリード・シンガーがいたことだ。そこにマクノートンのコーラスが加わり、深みのある世界を生み出す。さらに、第4のメンバーでソングライティングを担当したレンフォード・コーグルの存在も相俟って、パラゴンズ、テクニークス、ウェイラーズなどと共に当時のジャマイカで傑出したグループだった。70年代に入り、ビヴァリーズのレスリー・コングとの出会いにより、彼らはさらなる飛躍を果たす。「スウィート・センセーション」「リヴァーズ・オブ・バビロン」のヒットである。前者は後にUB40が『レイバー・オブ・ラヴ』でカヴァーし、後者はボニー・Mのカヴァーにより世界的なヒットとなり、そのオリジナルとしてメロディアンズにも注目が集まった。また、「〜バビロン」は、ジミー・クリフ主演の映画『ハーダー・ゼイ・カム』のサントラにも収録され、レゲエの代表的な曲としても多くの人に親しまれた。

 しかし、月夜の晩ばかりは続かない。ヒットも出し、蜜月関係にあったレスリー・コングの死により、メロディアンズには暗雲が立ちこめ、ついに活動は休止に至る。ダウは、英トロージャンからアルバム『ビルド・ミー・アップ』を発表するなどソロ活動をスタート。70年代は、寡作ではあったが、リー・ペリーの下で「ダウン・ヒア・イン・バビロン」、トニー・ロビンソンの制作で「リヴァーズ・オブ・バビロン」のセルフ・カヴァーを含む数曲を録音、またティンガ・スチュワートとの共作2曲を発表するなど活動を続けたし、80年代にはメロディアンズを再結成させた一時期もあった。しかしそれらは、目立った活動とはならなかった。

 92年、オーバーヒート主催のロック・ステディ・ナイトにてカールトン&ザ・シューズらと初来日。四十代半ばという脂ののりきった時期のそのステージは、カールトン&ザ・シューズ目当ての観客にも強い印象を残した。その力強いステージは、レコーディングもほとんどしていなかったし、日の目こそ見なかった80年代ではあったが、地道なライブを続けていたことを証明する出色の出来だった。来日前はその存在すらほとんど知られていなかったダウだったが、この来日を契機にアルバム『ミラクル』の発売、94年スーパー・バッシュでの再来日へとつながり、ダウ再評価の機運を高めた。

 ジャマイカでもファブ5が主催するオールディーズ・ショーなどで最近までその喉を披露していたというから、今回の死はやはり唐突で、残念でならない。豪快な歌い回しの一方でちょっと悲しげでセンチメンタルな表現もするなど器用さも持ち合わせていたし、声自体がレゲエを感じさせる稀有な存在でもあった。メロディアンズやソロとして残した決して多くはない、そしてこれ以上増えることはなくなってしまった作品をこれからも聴き続けることで、彼は僕らの記憶に生き続けるに違いない。安らかに。



"Sweet Sensation"
The Melodians
[Island / IRSP13]



"Swing And Dine"
The Melodians
[Heartbeat / CDHB129]



"Miracle"
Brent Dowe & The Melodians
[Overheat / OVE-0018]