先月号に引き続きBitty McLeanの傑作『On Bond Street』を紹介しよう。今回はBittyとも親交のあるライター&フォトグラファーのSimon "Maverick" BacklandがBittyに電話インタビューを試み、本作が生まれる過程などを本人に聞いた。

 Bitty McLeanによる『On Bond Street』は近年稀にみる驚くべき作品だ。僕の知るBittyは自然でのんびりして穏やかな性格だが、一度決意した事を実行する行動力は抜群で、デビュー以来、成長し続けている。その彼がウェスト・ロンドンで60年代からStudio OneやTreasure Isleを紹介してきたレコード・ショップ“Peckings”とタッグを組んだ事により完成したのがこの傑作、『On Bond Street』だ。

 「うん、若い頃、バーミンガムからレコードを買いに行ってたんだよ。最初に行った時はPeckingsを見つけられなかったけど、後で店を見つけてさ、そこに何時間でもいられたよ。Treasure IsleとStudio Oneばかりを聴いてたんだけど、僕の一番好きなのはTreasure Isleだったんだ。曲は勿論、制作とアレンジにおいても完璧だしね。僕にとってとにかくTommy McCook & The Supersonicsは最高だったよ」

 この様な音楽の素養は、Bittyが90年代前半に、若くしてバーミンガムにあるUB40のDEPスタジオでエンジニアとして責任者になった時に役立つ事になる。また、彼は自分の制作作品にサウンド・カラーをつけるため、サウンド・システムをしていた父親の膨大なレコード・コレクションから得たあらゆる知識も作品に生かした。それはあくまで仕事の空き時間の作業、つまり彼自身のレコーディングはスタジオが暇になった時間を利用して行うといった地道な活動だが。しかしそのうち彼の名前は知れ渡るようになる。完成した曲はVirginに持ち込んだが興味を示さなかったようだが、インディー・レーベルのBrilliantが興味を示し、93年にレコード・デビューとなったのだ。

 そのデビュー作「It Keeps Rainin'」(全英2位)を皮切りにヒットを連発。アルバム『Just To Let You Know』も大ヒットし、アメリカでの発売もVirginが行い一躍国際的なスターへ。しかしその後、Brilliantが経営破綻し、Bittyもレコーディング・アーティストをやめてしまったのだ。しかし、彼はその後も裏方として様々なアーティストと仕事を続けていくうちに、もう一度ヴォーカリストとして再起を願うようになる。

 「正直ちょっと音楽制作に嫌気がさしてたんだ。だって10回のうち9回はちゃんとしたクレジットさえ入れてくれなかったんだ。だからこそまたマイクを持つ時が来たのかもしれないって思ってね。そしたら丁度PeckingsのChrisがTechniquesの「My Girl」(「Moods」)リディムのテープを送ってくれたんだ。最初はコンピュータ・スタイルにと考えてトライしたんだけど……ま、ちょっと“いいヴァイヴス”はあったけどね。でも本当のDuke Reidらしい音の“感じ”にはどうしてもならなかったんだ。で、それなら正真正銘のDuke Reidのオリジナルのリディムの上で何かできないかって考えたんだ。で、最終的に考えたのがTreasure Isleのサウンドをそのまま使うアイディアなんだ。つまり、Tommy McCook & The Supersonicsよりも素晴らしい演奏なんてあるんだろうか?って考えたら、もういてもたってもいれなくなってね」

 BittyはこのアイディアをChrisとDuke "Peckings" Priceに話してみた。当然、Treasure Isleのサウンドを愛する彼らだからこそ、自然と、そして熱心に彼のアイディアを聞いてくれた。

 レコーディングをスタートしたBittyは「My Girl」(「Moods」)のリディムを使用する際、コンセプトから実行に至るまで細心の注意を払った。カッティング、つなぎ、そしてダビング……。結果、オリジナルである「My Girl」(「Moods」)を新しく、そして申し分のない「My One And Only Love」として完成させたのだ。

 「この曲をDuke Peckingsに聴かせたら、もう次の日には『レコードを出したい!』って言い出したんだよ!」

 この曲はその後、故Duke Reidの妻Lucille Reid(亡くなる直前)と彼女の親族、そしてDuke Reidのカタログを管理する関係者達、更に故Coxsone Doddの家族に聴かせたが、全く同じ反応だった。勿論、誰もがこの曲を聴けばDuke PeckingsやChrisの様なリアクションをしただろう。

 Duke PeckingsとBittyはその後、Treasure Isleからお墨付きを与えられる事になる。そしてDuke Peckingsはいくつかの古い1/4インチテープを掘り出し、Bittyは自分の昔のチューンとCDを掘り起こして制作作業は続けられた。

 「急く事も、プレッシャーも一切なかったのが良かったんだ。まず歌のためのアイディアを出して、ただただリズムと一体感を得るためだけ考えて……もの凄く自然にできたよ」

 BittyはTreasure Isleの作品の精神を保つために、オリジナルにある基本のライン、ホーンのリフやソロが損なわれない様に細心の注意を払い、膨大な時間を費やした。2004年1月までに12曲が完成し、あっと言う間に噂が飛び交った。そう、誰だってこのアルバムを聴けばピンとくるはずだ。こんなキラーなアルバムより他に良いものなんてあるのか?って。

 初回盤がレコード店に置かれて以降、この作品は売れ続けている。Bittyが『On Bond Street』にどれだけ愛情を込めていたかは、写真や情報満載のライナーノーツ、そして豪華なジャケットからも伺える。こんな世代を越えて楽しめる作品なんてそうそうあるもんじゃない。そう、間違いなく世代を越えた音楽ファン達に「ナイス!」と呼ばれるアルバムとなるだろう。

 追記:Bittyの次なるプロジェクトの計画は既に進んでいる模様。次作はフランスのTabouからのリリースとなりそうで、ジャマイカのアーティストを起用する予定とか。だが僕は、まだBittyとDuke Reidとのコラボレーションはまだ終わっていないと思う。

 ※日本での配給盤は、英輸入盤の貴重な英語のライナーノーツに日本語訳がつけられている。




"On Bond Street"
Bitty Mclean
[OVERHEAT / OVE-0095]