今や誰もが認めるスーパースターとなったショーン・ポールが、サード・アルバム『The Trinity』をリリース。先行シングル「We Be Burning」で聴かせたように真っ向勝負のダンスホール作品だ。さっそくドイツでツアー中の彼にインタビューを試みた。


サード・アルバムのリリースを一ヶ月後に控えた8月20日、ミュンヘン郊外のChemsee Reggae Summerで2万人の観客を相手に、ショーン・ポール(以下、SP)がマイクを握っていた。新譜の1曲目「Head In The Zone」を披露する際、ジャマイカで大流行のダンス "Willie Bounce" をカッコ良く踊ったのだが、ドイツでは未着らしく、付き合ったのはステージ上のダンサーとお調子者の筆者くらい。こりゃ大変だ、と思ったのは余計なお世話で、1時間10分ノン・ストップでSPは走り続け、 アンコールの「Get Busy」で2万人歓喜感動のフィナーレを飾った。そう、余計なお世話。SPの成功と新作に対して、コアなレゲエ・ファンや業界筋の一部が抱いている心配や猜疑心はまったく持って余計なお世話なのである。

SPはその空気をしっかり読んで、新作で「俺は変わっちゃいない、ゲームを変えただけだ」というテーマの曲を作っている。ちなみに、『ダッティ・ロック』は全世界で530万枚以上売り上げた。ツアーではエジプトやウガンダにまで行った。SPをスーパー・スターと呼ばずに何と呼ぼう。翌21日、3年ぶりの対面インタヴュー。「私、この間までジャマイカに3週間もいたのに、どうしてドイツで会っているんでしょうね?」と軽くジャブを繰り出したところ、「うーん、どうしてだろうね? 俺がスタジオに籠もっていたからかな」と困った顔で真面目に答えた。冗談ですってば。状況が変わっても性格は変わってないみたい。素晴らしい。

 新作は流行のリディムを起用し、踊りやすいスピードを維持する前作の骨格を残しつつ、テーマ選びやリリックの膨らませ方で肉付きを整えた。『ザ・トリニティ』は、レゲエ・カルチャーによく出てくるタームでもあるのだが。「宗教、文化的な意味は関係なくて、第三世界=ジャマイカで作った3年ぶりの3作目、3つのムードを持っている、という数の掛け合わせだ」。そのムードの一つが、"Seasons" 使いの「Never Gonna Be The Same」のコンシャス路線。「ジャマイカでは暴力沙汰が激増している。クラブに行って、人が刺される現場を目撃する羽目になるなんておかしいよね。あの曲はボーグルと仲間だったダディガンを追悼する曲だ。俺の国がこんな状況でなければいいのに、という思いを込めて作った。ジャマイカでは生きていくのがあまりに大変だから、手段を選ばず何でもいいから手に入れようとする人達がいる。間違えているけれど、政府が人々に回すお金を着服して何もしないから、仕方ないと言えば仕方ないんだ。ダディガンはもめ事を起こすような奴ではなかった。彼がなぜ、命を落としたのか、今でも理解できない」。

アルバムの大半を占めるパーティー路線の曲にも、メッセージが隠れている。「殺人事件や、ゲイ・バッシングのリリック騒動のおかげで、『ダンスホールはクレイジーで危険な音楽だ』と思い始めている人がいる。そういうファンに対して、『ちょっと待って。大丈夫だよ。俺がもっと自由で楽しいところに連れて行くよ』と歌っているのが『I'll Take You There』のフックなんだ」

 さて。彼が成功して以来、ほかのアーティストへの必須質問項目として「ショーン・ポールに続きたいですか?」と筆者は訊ね続けてきた。「絶対にそうしたい」と答える人がなかなかいないのが不思議なのだが、SP自身、ジャマイカから次のビッグ・スターが出てくることを期待しているだろうか?「自分のキャリアを伸ばすためにも、競争は大切だ。ただ、活躍の仕方はそれぞれ違うのも事実で、何を持って成功とか、誰が凄いとか決めるのは難しいよね? 実は、俺よりシャギーの方が売り上げ枚数は上なんだよ。俺の活躍した範囲が広かったから、ほかのジャンルへのインパクトが大きいように見えただけで。エレファント・マンも俺のようには展開しなかったかもしれないけど、彼がハードコアで強いアーティストだということは変わらない。彼が破ったバリアーも大きかったし。これから誰かが出てくるのは全然怖くない。怖いのは、『結局、ショーン・ポールだけで、その後はジャマイカから誰も出て来ないじゃないか』って言われる事態になること」。それを避けるためにも、ウェイン・マーシャル、タミー・チン、ダッティ・カップ・クルーのルーガマン、キッド・クラップに出番を与えている。

 プロデューサーも“ジャマイカ産”にこだわった。参加率が高いレネサン・クルーとドン・コルレオーンの魅力を訊いた。「レネサンのジャジー・T、デラーノ、ドクター・Jは俺のダブ・プレートを最初からたくさんかけてくれたサウンドマンだ。俺の弟もそうだけど、機材が進化したこともあって、耳が肥えているサウンドマンが自分達でトラックを作るのが最近の風潮だね。ドンは才能もある上、すごい働き者だ。トップにいるのに、これからの奴らにチャンスをあげる点もエライ。レンキーとも相性が良くて、いったん組むと必ずヒットになる。『Send It On』がシングルになればいいな、と思っているところだ」

 しばらくトップ・ランナーにいる彼に、一応最終ゴールも確認しよう。「この業界で長生きすること。アーティストとして引退しても、プロダクション側に回って自分のアイディアを形にしたい。キーボードは得意で、ほかの楽器を少し習い始めたところだよ。ギターでコードを押さえながら、メロディーくらいは作れるんだ」


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"The Trinity"
Sean Paul
[Warner / WPCR-12140]