全編カヴァーの「ついておいで」、4人がヴォーカル回す「You Know I Love You」、これら2枚のシングルを経て放たれるDubsensemaniaのニュー・アルバム『Versatility』。今作のなかからルーツに寄り添うだけでなく新たなスタイルを模索する彼等の“現在”が見える。

 「ほら!虹がでてる!」とPJが嬉しそうに言った。

 彼等の放つ暖かなヴァイブスに応えるかのように雲の切れ間に虹が掛かったのは、オーガニックで肩肘を張ることのない佇まいが来場者を魅了してやまない静岡の野外イヴェント「Quiet Hill」でのこと。周りを囲む緑にうずもれながら、彼等のグルーヴに心地よく身を委ねるオーディエンスが一気に覚醒し熱を帯びるシーンが幾度かあったが、その誘発要因はいずれも“うた”だった。

 昨年から今年にかけてリリースされたアルバム『Appearance』と『Disappearance』が、ルーツ・ロックやダブに対する彼等の回答として高い評価を得たのも記憶に新しいが、今春リリースの、山下達郎をはじめとする日本の名曲達をカヴァーしたシングル「ついておいで」や、先頃リリースされた、Ras Takashi、PJ、Rui、Ras Kantoの4人がヴァースごとにヴォーカルをとったことでも話題のラヴァーズを収録したシングル「You Know I Love You」、この2枚が指し示す新たな方向性に戸惑うリスナーもいたかもしれない。

 しかし、生で体感するとその真意がよくわかる。

 名曲と呼ばれる楽曲を自分達のものに昇華することで、オリジナルの楽曲への取り組みやクオリティもグッと上がっているし、6年に渡り活動を共にしてきたからこそ成し得る絶妙なコーラスワークが、彼等が常々こだわっている“ヒューマン・グルーヴ”にとってとびきりのスパイスになっているのだ。
 基礎体力の向上という意味で前者の果たした役割は大きいが、ダブセンスマニアの“今”を語る上で重要なキーワードは後者だろう。楽器よりもダイレクトに聴衆の心に届く“声”、それらが幾重にも重なり合うことで生まれる“ハーモニー”。目や音で互いにコンタクトを取るのではなく、呼吸で繋がっているこの感じが、確かに彼等の持つ独特なグルーヴの核になっている。

 現に、こうして彼等の“うた”がオーディエンスの間を波紋のように伝わり会場が1個の生命体のように見えてくる瞬間に出くわしてしまうと、なおさらそう思う。

 さて、そんな両シングルを経て導き出された答えが、この度リリースされたアルバム『Versatility』。

 「多才」という意味合いのタイトルからもわかるように、ただルーツに寄り添うだけでなく、ジャンルを越えて自分達のあり方や向かうべき場所を模索したアルバムとなっている。

 冒頭の「Synchrovibes」では切れ味の良いファンクのリズムを取り入れることで、より緊張感のある表情を見せてくれているし、ギターのLuiが持ってきた楽曲をドラムのPJが歌うという珍しいパターンで制作されたラヴァーズ「Feel You」では、「This One Is Dedicated To All Japanese Dub Passive !(こいつをダブを待つ全ての日本の人々に捧げる!)」というMad Professorの掛け声を挟んでダブになだれ込み、甘さと辛さを上手く表現している。その他、Ruby & The Romanticsの63年ビルボード1位作「Our Day Will Come」のカヴァー「Dub Star」や前述のシングル曲も2曲収録と、実にヴァラエティに富んでいるのだが、そんな一筋縄ではいかない楽曲群を1本の線で結んでみせるイマジネーション豊かなMad Professorのミックスも素晴らしい。

 ……それにしても、ライヴ終了後、楽器を機材車に置くなりグローブを取り出してキャッチボールを始めるRas TakashiとPJの少年のような笑顔といったら。

 この空気感があるからこそ、彼等の求めてやまないヒューマン・グルーヴが生まれるのだろう。




"Versatility"
Dubsensemania
[Sony / AICL-1646]