ボブ・マーリーの妻でもあるリタ・マーリーによって、ボブの遺体をエチオピアに再埋葬する計画があるのはご存知の通り。そのエチオピアでボブの生誕60周年を祝すイベント「Africa Unite」が開催された。イベントの実情と再埋葬の経緯についてレポート。

 2005年2月6日。よく晴れた日のエチオピアの首都アジスアベバのマスカル広場に25万人がみな口々に叫んでいる。「Africa Unite!!」「Africa Unite!!」。イギリス、フランス、スウェーデン、ジャマイカ、ウガンダ、ケニア、南アフリカ、世界中からやってきたラスタマン達。アジスアベバの金持ちエチオピア人から靴磨き少年やいわゆるストリート・チルドレンまで、更には500キロ北のゴンダールからわざわざ駆けつけてきたエチオピア人家族など、みんながみんな、25万人がボブ・マーリーの歌を大合唱するのだ。2月6日はボブ・マーリーの誕生日だ。今年はちょうどボブが60歳になる年であり、マスカル広場ではボブ・マーリー生誕60周年記念イベント「Africa Unite」が開かれた。50周年記念はジャマイカで開催されたのであり、ボブ・マーリーが生前「帰るべき故郷なんだ」と語ったエチオピアで、つまりジャマイカの外で初めて、そしてもちろんアフリカ全体でも初めてこのイベントが開催されたのである。

アジスアベバの町中に張られた「Africa Unite」の横断幕

午後1時過ぎに始まった「Africa Unite」はエチオピア・ポップスのスターテディ・アフロやベニン出身のアンジェリーク・キッジョ、ルーツ・レゲエの大御所のボブ・アンディが、そしてI-Threeがそれぞれの曲を披露し、トリにボブの息子達が登場した。ステファン、ジギー、ジュリアン、キマニ、ドミアン、かわるがわるボブの後期の歌を中心に歌い上げ、最後にボブのアルバム『Survival』にある「Africa Unite」を25万人が合唱する中でイベントは締めくくられた。

 このイベントの開催はひとえにボブの妻であるリタ・マーリーに負うところが大きい。彼女は亡きボブの後、「Bob Marley Foundation」という基金を打ち立て、アフリカを中心に教育改善や女性の地位向上、貧困の撲滅、医療機器の導入に努めている。その中でリタはラスタの聖地エチオピアで、アフリカ最大のラスタ・コミューンがあるシャシャマネでその開催を決定したという訳だ。ラスタとは1930年代にジャマイカで始まった黒人アフリカ回帰運動であるといってよい。当時、植民地宗主国イギリスは8割を占める黒人たちを17世紀以来西アフリカを中心に奴隷としてカリブ海一体の島々で強制労働に従事させてきた。つまりいいかえれば黒人たちは自分たちの文化や言語だけでなく歴史までも剥奪されたのである。「私達はここに生まれてここで育ってきた。こういう文化をもっていてこんな言葉をしゃべるんだ」ということがいえないのだ。西アフリカからつれられた黒人はなぜエチオピアに帰還しようとするのか? 西アフリカではなくなぜエチオピアなのか。ここがミソでおもしろい。

25万人もの観衆に埋め尽くされたマスカル広場

 もともと聖書にはブラック・アフリカについての記述はエチオピア以外にない。1896年エチオピアがイタリア軍をアドワの戦いにて勝利する。黒人牧師たちは興奮してエチオピアこそバビロンを打ち倒す、俺らの帰るべきアフリカであり、ザイオンなんだということを教会にて説教し始め、ついには聖書をひとつひとつの章をエチオピアが自分達の祖先、アフリカ全ての祖先を生んだ国であることを理論化していく。1930年に戴冠したエチオピア皇帝ハイレセラシエは12世紀以来直系の皇帝であり、まさに生き神であり、Jesus Christの生まれ変わりなのだという。アフリカで唯一植民地を免れたエチオピアはラスタ達にとって希望をたくすべき「約束の土地」となったのだ。

 「自分が死んだらエチオピアに埋葬してくれ」。ボブ・マーリーが生前残した遺言である。リタはこの遺言を実現すべく今回の「Africa Unite」のインタビューで次のように答えている。「ここは精神的にも肉体的にも彼の休む場所なのよ。再埋葬はシャシャマネになるわ。多くのラスタマンがいるところだし、ハイレセラシエが私達に与えた土地だもの。エチオピアの首相とアジスアベバの市長は了解済みだし現在はオルトドクス教会と交渉中なのよ」。だがしかし、ジャマイカの人々はこの動きに反発的な上に、シャシャマネのラスタコミュニティでも賛成する人は少ない。

 「ボブの墓がテーマパークのようなものになってしまうのは悲しいこと」(Sister Kima)、「リタは結局ビジネスマンなのさ。シャシャマネで大きいコンサートを開いたって、ここのラスタコミュニティには何の援助もしないじゃないか」(Dassy)、「リタはラスタっていえるかい?? 今回のイベントだって自分の名声を高めることじゃないか。イベントに行く気にもなれないよ」(DJ Paul)。シャシャマネのラスタ達の反応は一様にこんなものだ。「Africa Unite」に行ったラスタは、実はコミュニティの1割にもみたなかったのだ。

ボブ・マーリーへの讃歌が捧げられたナンヤビンギ

 こういったこともあった。2/1〜2/4まで「Africa Unite」をテーマとした公開シンポジウムが催されていた。学者からハイレセラシエの孫達まで様々な人が「Africa Unite」の可能性について語っていたものだ。僕がアジスアベバで仲良くしていたストリート・チルドレンを5人ほど引き連れて会場にいったのだが、Freeであるはずのこのシンポジウムもセキュリティが「仕事がないエチオピア人だから」を理由に入場させてもらえなかった。「Africa Unite」を実現すべくこのシンポジウムで話し合いがあったのではなかったのか。本当にそれを必要とするのは世界資本主義的経済のひとつの犠牲者である都市のストリート・チルドレン達ではないのか。彼らに発言する場所を与えてやるのが本当に「Africa Unite」への道が開けるのではないだろうか。

 「Africa Unite」。その表向きの華やかさとは別に実はこうした政治的な側面も多分に含まれていることを見逃してはならないのだ。


●「Africa Unite」
[日時]5/8(日)18:00〜 @新宿Open
[出演]Talk : 中森千尋、Live : I-Continually feat. Aillie, Ami & Rickie G, Shy、DJ : Herose 'X' & Big 'H'、Slide : 菅原光博
[問]Open/03-3226-8855
●「Bob Marley Tribute Night」
[日時]5/11(水)18:30〜 @横浜Thumb's Up
[出演]Talk : 中森千尋、Live : I-Continually feat. Aillie, Ami & Rickie G, Shy、DJ : Home Run Sound, Horizon Beat、Slide : 菅原光博
[問]Thumb's Up/045-314-8705