これまでの3作品で理想的な進化を遂げてきたヒップホップ界きってのハイセンスでハイポップなグループ=BEPの最新作がまたまた素晴らしい内容となっている。豊かな音楽性と驚きのゲスト・アーティスト、そして意味深なタイトル…。そんな一筋縄ではいかない彼等をクローズ・アップ。

 「これはヒップホップ版バリウッド(インド映画)だぜ!」というウィル・アイ・アムのコメントを目にした時は、何せアルバムの全貌がまだ見えていなかっただけに先行シングル「Don't Phank With My Heart」の如きインド風のサウンド・アプローチのアルバムなのか、と勘違いしてしまったのだが……。言うまでもなく、その答えは“No”だった。LAをベースとする彼等ブラック・アイド・ピーズ(以下BEP)は類い稀な音楽性を有するグループとして知られる通り。紅一点となるシンガー=ファーギーが正式にメンバーとして加わった前作『Elephunk』('03)辺りからその人気は不動のものとなる。

中でも世界中で大ヒットしたメッセージ・ソング「Where Is The Love」(『Covers』でチャカ・デマス&プライヤーズが取り上げていたことをご存知の読者も多いだろう)やiPodTVCDで有名な「Hey Mama」やグラミーを獲った「Let's Get Started」等の他のアクトとは異なるポップ・センス(彼らは良い意味でアウトキャストよりも遥かに“Pop”なのだ)が発揮されたシングルの数々は、BEPのことをよく知らない、つまりヒップホップ・ファン以外の層にも確実にアピールしたのだった。歌える(ラップ出来る)だけでなく、ダンスを含めたパフォーマンスで魅せてくれるグループであり、生バンドとセッションすることも少なくない彼等は、多ジャンルのバンドが出演するビッグ・フェスでも確実に“目立つ”。

そう、BEPの強味はグループとしての完成度の高さ、という点にある。それはフロントマン/シンクタンクのウィル・アイ・アムも充分に意識している筈だ。何せウィルと言えば、UKの“BBE”より通好みな内容の2枚のコンシャスなソロ・アルバム(2ndにはKRSワンも参加)をリリースしたり、あのカニエ・ウエストのレーベルからデビューした今話題の“R&B界のニュー・ホープ”ジョン・レジェンド等のプロデュースも手掛けていたほどの人物(因にジョン・レジェンドはそのウィルの2ndソロ『Must Be 21』やBEPの『Elephunk』にも参加していた)。またPS2の人気ゲーム・ソフト『グランツーリスモ4』のサントラにソロ曲の新曲を提供したり、リタ・マーリーのたっての願いでボブ・マーリーの「Africa Unite」をリミックスし、iTunesにてエクスクルーシヴ・リリース、というニュースもまだ記憶に新しいところだろう(その収益の一部は、スマトラ地震による津波被害者救済を目的としたウィル・アイ・アム基金、ボブ・マーリー基金、リタ・マーリー基金にそれぞれ寄付される)。

そんなウィルはBEPでの活動/作品作りを常にコンセプチュアルな形でプロデュースしている。例えば前作は、“象の歩くテンポにヒントを得た音楽”つまりはエレファント・ファンク→エレファンクだった。そして、今作は何と『モンキー・ビジネス』。そう、それはインチキ、ごまかし、または悪戯、などとネガティヴな意味を持つイディオム、だったりするのだ。そこには天才的な閃きのヒト=ウィルならではの“考え”があるのだろう。そう言えば本作は昨年8月にLAはバーバンクにある彼等のスタジオの火災事故により発売延期を余儀なくされるのだが、その際の被害額は約50万ドルだったとか(ワールド・ツアー時に入手したヴィンテージ楽器の数々を失うことに)で、それを取り戻す意味合いも少しはある? それはともかく本作はその昔“いんちきな音楽”(サンプリング等を指して)とされていたヒップホップをBEPならではの方法論で捉え、直したものとなっている。サウンドの志向性、その幅広さときたら前作の比ではない。

確かにこれはある意味真面目な悪フザケ、とも受け止められるほどのヤンチャなものだ。映画『パルフ・フィクション』でもお馴染みのあのディック・デイルのギター・フレーズをサンプリングしたマリアッチ風味のオープニング曲からして見事に振り切っている。ゲスト・アーティストをフィーチュアした曲で言えば、前作での「Where Is The Love」に続くセッションとなるジャスティン・ティンバーレイク(共にツアーした仲)との「My Style」などはネプチューンズ辺りを想わせるパーカッシヴな今風ファンクで、その他にも最新作『Better Together』も好調なジャック・ジョンソンの歌を効果的にあしらったスケール大きなアレンジのバラード「Gone Going Gone」、“ゴッドファーザー・オブ・ソウル”ことジェームズ・ブラウンを迎えたファンク・チューンの「They Don't Want Music」、そして“A&M”のレーベルメイトでもあるスティングと共に彼の「Englishman In New York」をリメイクし全ての人種の“団結”を呼びかけた「Union」…とそこだけ抜き出しても十分に魅力的な内容となっている(ジョン・レジェンドとの「Change The World」なる楽曲はどうやら今回は外された模様)。

勿論、その他のBEPのみの楽曲(おかしな表現だが)も押し並べて素晴らしい仕上りだ。幾つもの展開が用意されたアレンジといい、劇的なコーラス・ワークといい、機知に富んだ、しかも分かり易い/伝わり易いリリックスといい、そのどれもがもう眩しいくらいPopなのだから。と、一通り聴いてみて冒頭にあるウィルのセリフを思い出したのだが、確かにこれはまさによく出来た“ミュージカル”の様なアルバムだ。「Don't Phunk With My Heart」のパーカッションは言われてみればタブラのようだし、ファーギー嬢のヴォーカルもインド歌謡の如く耳に響く。しかしながら最もバリウッド的なのはアルバム全体の“意味のある流れ”なのだ、と一人合点した次第。全ての音楽ファンにお薦めしておきます。


DISCOGRAPHY




"Monkey Business"
[A&M / UICA-9007]
2005
"Elephunk"
[Interscope / UICA-1014]
2003
"Bridging The Gap"
[Interscope / UICS-1004]
2000
"Behind The Front"
[Interscope / MVCT-24038]
1998