ルチアーノ、ケイプルトン、シズラだけでなく若手も台頭してきたラスタ・シーン。その中で今最も輝きを放つリッチー・スパイスの『Spice In Your Life』が日本発売決定。インタビューを交え彼やチャック・フェンダー等が所属する5th Elementの魅力を解析。

 どうして私達は、いつもいつも新しいモノを欲しがるのだろう。クローゼットがいっぱいでもセールに出かけ、聴き切れないほどのアルバムを抱えながら新曲を探す。シズラもケイプルトンもビーニもルチアーノもベレスもソウもすばらしい作品を発表した2004年、私がもっとも興奮したのはヴァイブス・カーテルのフロウであり、タンヤ・スティーヴンスの語り口であり、リッチー・スパイスとチャック・フェンダーの存在そのものだった。

 いまのジャマイカの音楽シーンは風通しが良く、刺激に満ちている。アイ・ウェイン、ファンタン・モージャ、ジャー・キュアーなど、ちょっと前まで全く無名か、知る人ぞ知る存在だったアーティストがNo.1ヒットを放ち、ヴェテランはそれに触発されたように芸も磨く。そのシーンの突き上げの原動力となったのがフィフス・エレメント・レコーズ(以下、FER)の面々の活躍だろう。さらに言えば、「Earth Ah Run Red」や「Oh My Lord」が流行歌というより国民的愛唱歌として長くヒットし、チャートや人気リディムなどのハイプ抜きで、歌心と言葉だけで人々の信頼を勝ち得たことは、レゲエ・ミュージックの底力を再確認させられる“事件”だったのだ。

 リッチー・スパイスは、年明けにオブザーヴァー紙で昨年の「アーティスト・オブ・ジ・イヤー」に選ばれた。「うん、嬉しかったよ」と本人はあっさり答え、「でも、一番嬉しいのは、ずっと歌っていた "Earth Ah Run Red" が爆発的にヒットしたことだ。いい曲はいつか必ず届くんだ、と自信が持てたからね」。「地球が赤く染まっている、10才の子供が自力で食べ物を探している」、グサリと来るコーラスのこの曲を、ずいぶん前から彼は歌い続けてきた。00年のファースト・アルバム『Universal』にも収録されたこの曲が改めてヒットしたところに、私は彼のポテンシャルの大きさを感じる。プライヤーズとスパナー・バナーは兄、DJのスナッチャー・ドッグは弟と、11人兄弟のうち4人がプロ。スタイルは全員バラバラなのだが、謙虚なリッチー青年は自分のアルバムやイヴェントにきちんと兄弟達を招待する。

 もう一つのファミリー、FERにはチャック・フェンダーの紹介で2年前に入った。FER自体、新興レーベルであり、正統派シンガーのアンソニー・クルーズを含めた3人が看板アーティスト。社長のデヴォン・ウィートレー自身がプロデューサーで、なるべく大手・大物に頼らず自力でマーケットを開拓するのがモットーらしい。ワン・ドロップ系の懐かしめのサウンドが目印だが、ビジネス手腕自体は斬新で、最初から世界を見据えている。アーティストは全員30代前半、フェンダーとクルーズは海外生活経験者、リッチーも兄達に付いて海外ツアー経験は豊富と、存在はフレッシュだけれど全員ガチッと安定感があり、それが音にも現れているのが強みだ。フェンダーにしても、リッチーにしても、アルバムの完成度は驚くほど高い。クルーズもかなりの歌い手。リリックで殊更ラスタファリズムを強調していない理由についてリッチーに訊ねたところ、「だって、俺はジャマイカ人のためだけに音楽を作っているワケじゃないから。苦しい思いをしている人は世界中にいるだろう?」と返してきた。ラスタの教義よりも、彼は01年9月11日の世界同時多発テロ事件や、ストリート・チルドレンといったトピックをダイレクトに曲にする。昨年5月に5曲入りのサンプラーをもらって以来、アホみたいに彼の曲を聴き続けているのだが、それでも日本盤が出るに当たって対訳を引き受け、英語のリリックすべてに目を通した時はその力強さ、深さに胸を掴まれる思いがした。ジャマイカでの彼の人気の秘密も、そこにあるはずだ。

 「アルバムで一番訴えたかったのは、血なまぐさい世の中から人々を正しい方向に導くようにすることだ」と話すミスター・ライチャスネスである一方、グレゴリー・アイザックスの再来と言われる艶っぽい歌い方も魅力で、ジャマイカのステージでは女性客から嬌声が挙がる。ラスタ系では珍しい反応だろう。本人はおっとりとした物静かな人で、自作以外で昨年流行った中で好きな曲を訊ねたら、5秒考えて「ジャー・キュアーの "Longing For" が好きだな」。……存在としては、ライヴァルじゃないの、ジャー・キュアー。北米やヨーロッパではすでに飛び火しており、精力的にプロモーション・ツアーを展開中だ。今、数えたら03年の暮れから今まで計8回彼らのステージを見続け(ええ、リッチー・ウォッチャーと呼んで下さい)、ステージ捌きも観客の反応もどんどん良くなっていて今後が楽しみ。

 リッチー・スパイスとFERはもう、物欲を満たすだけの“新しいモノ”ではない。私は老人ホームまで持って行く覚悟が出来た。まだの人は、英語の詞および完全対訳付きの日本盤を、ぜひ。




"Spice In Your Life"
Richie Spice
[Victor / VICP-63006]






"Better Days"
Chuck Fenda
[5th Element / EMCD001]






"Universal Massage Vol.3"
V.A.
[VP / VPCD-1697-2]R.SpiceやC.Fendaの
ヒット曲の他、Jah Cure、I Wayne、
Fanton Mojo等の最新ヒット曲も収録した
ラスタ系コンピ盤。