ボーダレス、そう音楽に国境はない。そうかと言ってもこの小さな出来事は、ありそうでいて実はなかなかあり得ないだろう。

レゲエ・ミュージックの素晴らしい所はたくさんある。良いトラックを皆で共有してワン・ウエイ・アルバムを作ってしまうなんてことは、他のジャンルではあり得ないだろう。カヴァー曲にしたって、いいなこの曲、好きだなと思ったら既に他の人がやっていても、再演、再再演、再再再演だって平気。

 そんな中でMoominとカシーフ・リンドの関係もかなりのもの。最初はMoominの「ミュージック・イズ・ア・パート・オブ・ミー」をカシーフが01年にカヴァーした。きっかけはこうだ。オレがMoominのCDをマイアミに住むカシーフの父、ウイリー(今月号の表紙でべレスの後ろにいる男)に送ったのだが、「中身が入っていないけど、これはなんだ?」と電話がかかってきた。オレは中を見ないで送ってしまったらしい。まったくアホである。すぐ送り直して電話したら曲の善し悪しについてはうるさいカシーフとウイリーが反応してきたのが「ミュージック・イズ…」という曲だった。J.C.ロッジ、デニス・ブラウン、ボリス・ガーディナー、マキシ・プリーストなどの出世作をプロデュースしてきた辣腕のウイリーが興味を示して来た。すげえことだ。

一方、カシーフのアルバムをOVERHEATで出す予定があったので「日本語でカヴァーして、この中に入れようよ」ってことになって、オレもジャマイカ行きの途中でマイアミに立ち寄り、彼らのヘヴィービート・スタジオで日本語指導をやり一日で完了。もちろん英語詞のものもレコーディング。この英語ヴァージョンは02年にVPから出たコンピレーション・アルバム『Strictly The Best 30』に入った。年間にしたら何千曲(?)もレコーディングされてる曲の中から選ばれたんだから快挙。余談だが、この中にはショーン・ポールの「I'm Still In Love」などと並んでべレス・ハモンドのヒット曲「Holiday」も入っている。べレスの家に立ち寄った時に、このCDを見せてカシーフとの曲のいきさつを話したら、「もうヘヴィービート・スタジオで聞いたよ。いい曲だ」と言ってくれた。

 年は変って03年、今度はMoominがユニバーサル/アイランドに移籍して初アルバム『ライズ・アゲイン』をリリースしたが、この中には逆に、カシーフのアルバム『ミュージック・イズ・ア・パート・オブ・ミー』からの「Where Do I Fit In」という曲に日本語詞をつけてカヴァー。トラックもそのまま使用させてもらい、もちろん良い出来だった。これで、このストーリーは終わりのはずだったが、今月VPから届けられたシリーズ『Lasting Love Song Vol.4』の中にカシーフのオリジナル「Where Do I Fit In」が見事に収録されていた。

 いつの日か、カシーフとMoominが同じステージで、それぞれの曲をコンビネーションするなんてことがあったら実に楽しいのだが。




"Music Is A Part Of Me"
Kashief Lindo
[Overheat / OVE-0086]


"Strictly The Best 30"
V.A.
[VP / VPCD1660]


"Rise Again"
Moomin
[Island / UPCH-1260]


"Reggae Lasting Love
Songs Vol.4"/V.A.
[VP / VPCD1686]