ベレス・ハモンドの歌声はレゲエ界の宝だ。深みと滋養分があって。温かいと同時に切なくて。人柄も温厚でまじめ。ベレスのすばらしさが分からない人と、私はレゲエの話をしたくない。出来ない。『Love Has No Boundaries』。愛に垣根はない、という彼らしいタイトルの新作を発表したベレスに電話で話を聞いた。

●2001年の『Music Is Life』から3年半ぶりですが、今回のタイトルは01年以降の世相を意識したのでしょうか?
「その質問は難しいから、自分で合っていると思える答え方をするね。私はスタジオに入ってから頭に駆けめぐったことを形にする。毎日の生活で感じていることを曲にしているだけだ」

●アルバムに取りかかる時も、テーマやコンセプトは決めない?
「一切決めない。イメージとか考えないし、ベレスらしくするだけだよ。いい仲間達と音楽を作って、たまにしょーもない奴とも仕事して」

●しょーもない奴とうまくやっていくコツはなんでしょう?(笑)
「無視(笑)。悪いメッセージを受け取って振り回されないように、相手にしないことが一番だね」

●タイトル曲など、もろにレゲエではない曲もあります。「ベレスの音楽」というスタイルを確立している一方、レゲエ界のキングと言える立場にいるのがスゴイと思います。
「その“ベレスの音楽”という言い方は嬉しいね。ありがとう。私はレゲエ・シンガーと言われるのも、バラッディアと言われるのも嫌いで、ただ音楽を通して表現する機会を享受していたい。どんなタイプの曲でも、メッセージがみんなに届くの大切だ。ただし、俺はジャマイカ人で、ロッカーズの国で生まれた以上、そのリズム、レゲエに乗るのが一番自然ではある」

●一昨年前のヒット“Good Old Dancehall Vibes”も収録していますが、ビッグ・ユースと組むのは最初から決めていました?
「古き良き時代のダンスを懐かしむ曲だから、ビッグ・ユースがぴったりだった。以前作った“Rockaway”の、いわば続編だ」

●過去形ということは、もうダンスには行かない?
「いや、行くよ。その辺は柔軟なんだ。心から楽しめる曲は少ないけどね。プロなら、リリックも含め、ダンスで映えるだけでなく家でも聴ける音楽を作るべきだ」

●最近の曲は、リリックに問題がある?
「中にはナイスでクリーンな曲もあるけど、罰当たりなのが多すぎる。今みたいなシリアスな時期に、そういう曲は要らないんだ。殺しとか憎しみとか、子供が聞いたらどうするんだい? 必要なのは、愛についての曲だ。“Oldies but Goodies”って言葉あるだろ? オールディーズと言われたらイヤだけど、グッディーズの部分は大事にしないと」

●今回、“Love”という言葉が曲名に多いのもそれが理由?
「その通り。私はみんなに大事なことを思い出させる役回りだから」

●また歌詞が載っているのが嬉しかったです。これはあなたのアイディア?
「VPとハーモニー・ハウスと私の共同作業だ。自分が何を歌っているのか、きちんと伝えないとね」

●シンガー、ソングライター、プロデューサー、そしてレーベルのオーナーといくつもの役割をこなしていますが、典型的な1日の流れを教えて下さい。
「基本的にスタジオにこもっている。オフィスとは電話で連絡を取り合って、早急に対応しないといけない場合は何とかする。頭が痛くなることも多いけど、まぁ楽しんでいるよ」

●敷地内に滝がある、という噂を聞いたんですが。
「自分が好きな物を置いてある、とだけ答えておこう。自慢するのは好きじゃない」
●ベレス・ハモンドが滝の前で歌っているのは素敵かな、思ったもので。
「アーハッハッハ。プライヴェートってことで、想像に任せるよ」

●今回はロック・ステディーのフィーリングを持つ曲が多いですね。あなたはスタジオ・ワン世代の次に当たりますが、もし、10年早く生まれたらどうなっていたと思いますか?
「それは誰も答えられないと思うけど…私はしっかり質問するタイプだから、仮にあの時代にいても手放しでスタジオに入らなかったんじゃないかな。ビジネス的にほかの人ほど損をしなかったと思うし、ひょっとしたら状況を良くできたかも知れないね」

●どの世代にも人気がある一方、どのグループにも属していないのがあなたの特徴のような気がします。
「ベレスは一人しかいないからね。ほかの人と比べられたり一緒にされないのはいいことだと思っている。でも、仲のいいアーティストは多いよ」

●盟友ブジュと、新しい才能のナチュラル・ブラックを招いていますが、今、ラスタ系のアーティストが注目されているのはどう感じていますか?
「それぞれが持ち場があるから、私は構わないよ。ほかの人のライフ・スタイルは気にならない。ある点で一致していれば、一緒に仕事できるんだ。人間として本物だったら、私はディールできる」

●アルバムのエグゼクティヴ・プロデューサーを務めたジャー・キュアーについて、近況を訊いてもいいでしょうか?
「元気にやっていることは知っている。大変な状況を生き抜いているけど(※筆者註)、強い若者だから大丈夫だろう。以前はとても心配していたけど、最近はそうでもないんだ。そのうち、いいニュースが入ってくると信じているよ」

【※筆者註】ジャー・キュアー/98年に銃の不法所持及びレイプの罪で逮捕され、15年の刑で服役中のラスタファリアン・シンガー。一貫して無実を主張、プロデューサーとして彼を育てていたベレスもバックアップしている。最新のインタヴューはwww.jahworks.org/music/interview/jah_cure.htmで読める。獄中からシングルや『Free Jah Cure』(J&D, 2000年)、『Ghetto Life』(VP, 2003年) 等のアルバムをリリースしている。




"Love Has No Boundaries"
Beres Hammond
[Harmony House / VP / VPCD1714]