ヴァイブス・カーテル。問答無用、ダンスホール・レゲエの次のチャプターを開き、引っ張っていくのはこの男だ。声、リリック、アティチュード。トップDJの資質をすべて持つ。頭の回転は超高速。昨年リリースされた『Up 2 Di Time』のリパッケージ盤、『More Up 2 Di Time』を間もなくドロップする彼を、キングストンのスタジオでキャッチした。

生まれはポートモアですか?
Vibz Kartel(以下V):いや、キングストンのウォーターハウスで生まれた。81年、まだ小さい時ににポートモアに引っ越した。

ジャマイカではすでに人気者ですが、インターナショナルな展開のために具体的なアイディアはありますか?
V:俺が有名になるだけでなく、ダンスホールがほかのジャンルと同じように誰でも楽しめる、知的な音楽として認知してもらえるように頑張りたい。外国の人達にメロディーを楽しんでもらって、ある程度リリックも共感してもらえるようにするのが俺の役目だ。

ショーン・ポールはパトワを使いながら、ほかの国の人に分かりやすいように発音した、と言っていました。あなたのサビが分かりやすいのも、その点を気を付けてのことですか?
V:パトワは英語もベースになっているから、共通の言い回しはたくさんある。だから、ムリに変えずにそういう言い回しをメインにすれば分かりやすくなる。それから、キツめのパトワを使った後に、通じやすいフレーズをすぐ持って来る工夫もしている。

今日の服装(ジーンズにボタンダウンの白いシャツ、タイ、ジャケット)は以前のイメージとはずいぶん違いますが、海外での仕事が増えたことは関係ありますか?
V:前に着ていたスポーツ・ウェアはアメリカのラッパー達の影響をモロに受けていたよね。最近、俺が影響を受けているのはジャマイカのアップタウンの人達。第一印象や外見は大事だよ。あと、バランスを取る目的もある。俺はダーティーなリリックが多いから、見かけくらいクリーンにしないと(笑)。

リパッケージ盤も朗報ですが、真新しいアルバムでもいいタイミングだと思うのですが。
V:そうだろ? 俺もグリーンスリーヴスのトップにそう言ったけど、ちょっと待て、と言われた。イギリス人はトロくてダメだ。俺のペースについて来てない。

何曲加えたのですか?
V:最近のビッグ・ヒット、「Tek Body」「Picture」「Real Bad Man」 などを加えて、2曲くらい抜くんじゃないかな。本当は新しいアルバムを出したいんだ。未発表の曲が30曲、アルバム2枚分ある。ほとんどがドン・コルトレーンのプロデュース。名前を変えて、例えばカーテルだけにしてほかから出してやろうかって考えているくらいだ。

ドン・コルトレーンを特に気に入っている理由は?
V:たけど、ほとんどのプロデューサーが真に受けてくれなかった。その中で、ドンだけが「そのスタイルに合うトラックがあるよ」って反応してくれた。俺の最初のブレイクは奴の“Mad Ants”リディムの「New Millenium」だし。

ほかにインスパイアーされるプロデューサーは?
V:レンキー。奴は天才だ。彼は音楽的な素養がしっかりしている。

いいDJの必要条件は何でしょう?
V:シャギーやショーン・ポールといった例外もいるけれど、ジャマイカではゲットーで育って人生の真実を語れるDJがいいDJだ。人々の声を代弁して、みんなの経験を肌で感じられること。それが感じられないと表現できないからな。
では、最も偉大なDJになる条件は?
V:偉大なDJ? いまはヴァイブス・カーテルだろ。プロモーションが弱いから、対外的にはエレファント・マンとかの方がビッグに見えるかも知れないけれど、勢いは俺の方がある。リッチー・スパイスも勢いがあるし、どんどん変わっていく可能性もあるけどね。

スティングの一件は落ち着きました?
V:俺は元々全体のシステムから外れているから、その中で納めるのは土台ムリな話だ。マイナー・チャージで済んだし、今年に入ってからショウのオファーがドーンと増えたから、俺にとっては悪い結果じゃなかったよ。

悪い評判も宣伝のうち、ということですか?
V:その通り。俺の経験が証明している。

全盛期を過ぎたとは言え、ニンジャマンは一時代を築いた人です。言葉でクラッシュするならともかく、手を出したのは彼に対するリスペクトが足りない、という意見あるようです。
V:みんな意見を言う権利はあるし、俺もその権利は尊重する。でも、あれはアクションではなくて、リアクションなんだ。理由もなく俺を嫌って最初にアクションを起こしたのはニンジャマンだ。だから、ああやって返したのが俺のサティスファクションだ。俺は日本人が目上の人を敬うのは知っているし、その点もリスペクトしている。しかし、だ。目上でもペテン師はいるんだ。過去に栄光をつかんだ人が、俺の栄光を傷つけようとするのはクールじゃない。

かなりシリアスなんですね。
V:端で見ているよりずっとディープだよ。俺達は元々同じカテゴリー、ギャングスターDJだからな。音楽的にニンジャマン、バウンティ・キラー、ヴァイブス・カーテルは祖父、父、息子の関係だ。その間柄で闘っているんだからね。俺はずっとニンジャマンを聴いて育った。シャバ(・ランクス)と対立していた時も奴を応援していた。

ニンジャ派だったわけですね?
V:訊くまでもないだろ! ニンジャマンのやること全部で熱くなったし、お手本にしていた。その人からディスられた時は耳を疑ったよ。口を利いたこともなくて、いきなり公共の場でやられた。で、今度はアサシンだ。売られたケンカはきっちり買って返さないと筋が通らない。またしても反撃だ。でも、あくまで音楽上でのことだよ。音楽は自己表現なんだから、自分の言いたいことをDJするのは全く正しい。それでまた、ダンスが盛り上がるんだし。

最近はアサシンの代わりにスプラガ・ベンツが出てきているようですが。
V:奴は悪いDJじゃないが、パーソナリティーがない。偉大なDJに絶対に必要なものだ。ニンジャマンやバウンティーにはあった。ヒットラーやナポレオンにもあった。

彼はニンジャと組んで、スティングであなたとクラッシュする噂がありますが。
V:ニンジャ、スプラガ、アサシン。束でかかってきても、俺一人で十分だ。望むところだね。俺は一人で周り全員を相手に闘って育ってきた。今回も同じだ。すごく楽しみだよ(笑)。




"Up 2 Di Time"
Vybz Kartel
[Don Corleon / Greensleeves]