「いかに自分に正直であるかが大事なんだ」。期せずしてホレス・アンディの会心作が2タイトル・リリース! 一聴すると互いに表情は違うが、共に彼の今を伝えきったキラーなアルバムであることは間違いない!

 ベテラン・シンガーのドラッグ(アルコール、タバコを含む)依存や年齢に伴う声の衰えは、ファンとしてある程度許容してしまうものでもあるが、このオッサンは全然そんな心配要らない。唯一無二のヘンなビブラートが全開だ!

 「生きててよかった…!」とは、2001年にユニバーサルから発売されたウェイラーズ『キャッチ・ア・ファイアー〜デラックス・エディション』の帯にあったコピー。もちろん最初は何を大げさな、と思ったわけだが、未発表オリジナル・ジャマイカン・ヴァージョンを聴いてシビれてしまい、納得したわけだ。レゲエを聴き続けることによって様々な感動があるが、今回は生きててよかっただけでなく、まだまだ生きて彼の歌声を聴き続けたいと感じた、ホレス・アンディの日本先行発売二点。
 この僕の気持ちを伝えたく「まだまだこれからも新作を期待していいですか」と尋ねたのだが、「その質問は、私に早く引退しろといってるように感じるよ」と切り替えされてしまった。なんと心外な!

 まず、アリワとFive Man Armyの共同レーベル“Ariwa Far East Chapter”からの『ライズ・アップ』は、スライ&ロビー演奏のアリワ産ロッカーズ・ビート。いや、ステッパーって言うんだっけ? 解剖すると、ジャマイカならエクスターミネーターのそれと同じ、胸に刺さるような芯の強いスネア。100Hz以下無視のパソコンのショボい外部スピーカー(一応JBLなんだけど)では聴き取れない、地を這うベース。そしてマッド・プロフェッサーお得意の、歌の良さをかき消さない、“マッド”にならない程度のイフェクト処理。「ラヴァーズのアリワ」だと思い込んでたヤツは、リリックもサウンドもヘヴィでコテコテのルーツ・ロック・レゲエを、耳の穴かっぽじってよーく聴きな。面子から考えれば当然だけど、こんなカッコええもん創れるならもっと早いうちから頻繁にコラボレートすればよかったのに。

 そしてもう一つの『アウト・オブ・ザ・ヴォルト』は、札幌のトーン・キャツ・レコーズが主体的に取り組み、ホレス自身がジャマイカで制作したものだ。タイトルに込められた意味についてホレスに尋ねると「貴重品とか大切なものを入れておく箱を想像してごらん。その中にずっとしまってあった思い出の品を、みんなのために取り出したんだ。このアルバムは、私からみんなへの豪華なプレゼントなんだ。息子にも見せたことのない、箱の中身を公開したわけだよ」。ギター、キーボード、プログラミングもすべてホレスによるものだが、ドラムはホース・マウスとスライ・ダンバーが手伝っている。そしてこのサウンド・プロダクション、意外にもダンスホールだ。典型的な2拍3連のリズム・パターンが14曲中6曲。しかしアレンジは現在のジャマイカを意識しているように感じられない。あえて例えるならば、80年代後半のダンスホール・トラックを、現在の楽器や録音機材でやり直したとでもいえようか。特に「The Greed」は、87〜8年のジャミーズ・トラックに少しダブ処理が施されたような、クールで懐かしいトラック。ところがホレスいわく、特にこの年代を意識したわけではないという。ダンスホール色のトラックが多いことについても「特に大きな理由はないが、強いて言うなら、すべてのレゲエ・ファンに受け入れやすくとは考えているね。ただ時代の流れもあるよ」との答え。僕の安易な推測だったようで。残りの8曲中リズム・トラック自体がルーツ・レゲエと呼べるものは3曲で、他にはイントロが懐かしのグラウンド・ビートしているジョジー・ウェルズをフィーチャーした「When You Need Me」や、"Ninja Mi NinjaCover Me)" リディムの「All For Love」など、ホレスらしくないけど面白い。少々難をいえば、ハットなどの音数や、昔流行った類のサンプリング効果音が多すぎたかな。

 しかし両方のアルバムとも、僕が一番嬉しかったのは、ある程度は日本先行発売を意識したと思われるが、いわゆるラヴァーズ・ロック・アルバムではなかったこと。「Babylon Burning」や「Runaway」(共に『ライズ・アップ』)、「Put Down The Gun」に「Invader」(『アウト・オブ・ザ・ヴォルト』)と、タイトルだけ見てもソソられる。この「Babylon Burning」について、ホレスは「ジェームス王の聖書文中の黙示録に書かれている伝授だ。火が燃焼される事が書かれている。(…中略…)その火はすべての悪事を燃焼し、追い出すと。(…中略…)燃えるべきものは必ず焼かれる。ソドムとガモーラのように。どこもそうだ、アメリカ、イギリス、ヨーロッパ、日本、どこでも。都会から離れなければならないよ」と答えている。優しいハイトーン・ヴォイスで癒されたかったオンナどもよ、悪しからず。

 7月には「Five Man Army presents Summer Show Case」(東京23日、広島25日)への出演で、マッド・プロフェッサーらと来日。ライヴについて本人は「音楽をレコーディングする時には、歌声をテクノロジーにより、修正する事が可能だ。が、ライヴとはごく自然な試みなので、非常に美しい体験だ。間違いを歌っても、もう一度戻って、やり直す事は出来ない。(…中略…)間違いを犯しても、進まなければならない。なので、私はステージ・ショーが好きだ。より自然な感じなので。間違いを犯しても、聞く事が出来るのが、ライヴなので」と、やる気マンマンだ。レコーディングとの違いという点でいえば、マッド・プロフェッサーのライヴでの卓捌きも楽しみである。

 さて、冒頭で触れた声について、53歳になった御大の答えを最後に記しておく。「私の声はJahが与えてくれたものなんだ。それは(…中略…)私自身とJahが与えてくれたものが融合してできあがったものだ。それを維持していくために、常に自分の音楽に正直であろうと努力している」。




『Rise Up』
Horace Andy
[Five Man Army / FMAR-003]
『Out Of Vault』
Horace Andy
[Tone Catz / TCRCD-007]