「まだ、アンタには無理よ」。お、言っちゃいましたね、という挑発的な「Yu Nuh Ready For Dis Yet」で、90年代後半に頭角を現したタンヤ・スティーヴンスが『Gangsta Blues』でシーンに帰ってきた。これが、大化け。97年『Too Hype』、98年『Ruff Rider』も悪くなかったが、平均点を少々上回る出来だった。新作はフィーメールもの最高新記録更新作である。いや、女性と限定するのは間違いかも。リリックの奥行きの広さでは、ベレス、シズラ、ブジュらの力量と肩を並べる。新作をドロップしたばかりの彼女に、クィーンズのVPレコーズのオフィスで会ってきた。

いつ、どんな風にこの仕事を始めたのでしょう?
Tanya Stephens(以下T):90年代の頭からね。みんなと同じように、ダンスに行くのが楽しくて、気が付いたらマイクを握っていたって感じ。

スタートはただのパーティー・ガールだったと?
T:まぁ、そんなところね(笑)。だって10代だったんだから。

DJも出来るシンガーという捉え方でいいのでしょうか?
T:私も自分が何者かまだ分からないの。探っている途中よ。
ダンスホール・レゲエは女性にとってタフな世界ですよね。長く続けられた秘訣は?
T:んー、人生そのものがそれほど簡単ではないでしょ。やりたいことがあったら、自分でチャレンジするだけよ。でも、女性だから大変と思ったことはないわ。ライヴァルも少ないし、スタートを切るチャンスは貰い易い。問題はその後。本気にして貰って、評価を得るのは男性よりずっと難しいでしょうね。

しばらくスウェーデンに住んでいたそうですね。
T:スウェーデンのワーナーと契約して、99年から2002年までいたの。自分の方向性とは違う音楽だったから止めた。

「Yu Nuh Ready〜」や「Google」などヒット曲を放ってきましたが、自分の転機となったのはどの曲だと思います?
T:「Yu Nuh Ready〜」でしょうね。あれでみんな注目し始めたから。

リリックが面白い曲でしたが、特定のイメージが付き易い曲でしたよね? それで困ったりしませんでした?
T:プロデューサー達があの手の曲を作ろうとしたのには辟易したわね。すでにやったことを繰り返しても仕方ないのに。

どんなタイプの子供だったのでしょう?
T:セント・メリーで育ったから、田舎の子供よね。男の子達と木登りをしたり、ボールを追いかけたりするお転婆だった。

ジャマイカでは、レゲエ・アーティストに対する世間の評価が高くなっていますよね。ウェイン・マーシャルなどがCMに出ていて驚いたのですが。
T:私達はアイコン(アイドル)だからね。政治家がレゲエ・アーティストの言うことを気にするほどで、少しおかしいと思っているわ。だって、私達はまだまだ意味のある変化を起こしていないわけだから。将来的にもっと色々なことが出来るといいわよね。

前の作品と本作で一番変わった点は?
T:私の成長。これがタンヤ・スティーヴンスの音楽、というのが出来たと思う。最初から最後まできちんとつながりながら、沢山のストーリーを語っている。

あなたのリリックはいわゆる「流行りのトピック」とは一線を画していますね。
T:新しいことを言わないと。例えば、バティマン(ゲイ)を攻撃するのは使い古されているし、個人的に全く興味がない。バティマンを殺せってリリックで言っても、それで減るわけではないんだから、意味ないじゃない? 悪口や文句ばかり言ってないで、現状を変えるように行動を起こしましょう、というのが私の姿勢。

「Little White Lie」(注;夫が父親ではないことを黙っている話)はどんな風にストーリーが頭に浮かんだのでしょうか?
T:ジャマイカではあの歌の状況を経験している女性は少なくないから作った。自慢できるような話ではないけど、誰でも間違いは犯すわけだから、彼女達を罰しても仕方がない。目の前にいる子供には罪がないし。

「It's A Pity」は不倫の歌ですよね?
T:好きになってはいけない相手に惹かれてしまうのは、男性でも女性でもあるでしょ。ただ、女性の方がうまく状況をコントロールできると思うけど。

G・アイザックの「Night Nurse」を下敷きにしたあのリディムで、他にも曲が作られましたが、あなたの曲が最初ですよね? あのアイディアは誰から?
T:あれを作ったのはドイツ人よ。面白いでしょ。ドイツからもいいレゲエが生まれているワケ。以前はジャマイカ産でないといけない、他の国の人がやると俺達の文化を盗むのか、みたいな態度も多かったけれど、段々変わってきている。私は完全にオープン。いい作品だったら、どこから出てきても大歓迎。

今回の作品はほとんどアンドリュー・ヘントンがプロダクションを手掛けていますが、彼とは長く組んでいるのですか?
T:5年位かな。最初はロード・マネージャーだったの。彼はビートを作るし、共感するところも多かったから、プロダクション・チームとして組んだの。

新作の制作期間は?
T:1年弱。20曲から選んだの。それまでにヒットした「It's A Pity」や「The Other Cheek」、「What A Day」も入れたかったし。「What A Day」は特に今の状況では耳を傾けて貰うべきメッセージが入っているから、外せなかった。

最後に日本の女性達にメッセージをお願いします。
T:女性だからって自分に出来ることを限定しないことが大事ね。アーティストの人はそこに居続けること。それも、自分が納得できる形でね。




"Gangsta Blues"
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