松永孝義を「日本で一番好きなベーシスト」と断言する高橋健太郎(音楽プロデューサー&音楽ライター)が彼について緊急寄稿。

 去年のフジ・ロック・フェスティヴァルだった。遠くの方でハシケンのライヴが始まった瞬間に思った。この音楽には絶対的にグルーヴが漲っているぞ、と。

 近づいて行ってみると、なんだ、やっぱり。ベーシストが松永さんだった。世界中のミュージシャンが集まっているフェスティヴァルの中でも、オレはこの人のベースが放つグルーヴが一番好きかもしんない。その時にあらためて、そう思った。

 好きなベーシストは沢山いるけれども、松永孝義の寡黙な、不動のグルーヴは僕にとっては特別な物だ。もちろん、世界レベルで。といっても、彼の演奏はパッと見には目立つものではないかもしれない。だって、この人、これしか弾けないのか? 他に何も考えつかないのか?と思うくらいに不動だから。実は松永さんは高速フレーズだってバリバリに弾けるプレイヤーなのだが、ともかく、一度グルーヴし始めたら、そのまま深く深くそのグルーヴの中に沈み込むような演奏をする。静かで重いが、しかし、強烈にロックする。一緒に演奏しているミュージシャンはさぞかし気持ち良いだろうなあ。たった一度だけ、僕も松永さんと一緒にレコーディングで演奏したことがあるが、ワンテイクでOKが出てしまって、嬉しいやら残念やらだったのを思い出す。

 松永さんの演奏を初めて見たのはミュート・ビートだったのか。もはや記憶は判然としない。トマトス、ラブジョイ、リング・リンクス、ロンサム・ストリングスなどなど、パーマネントな参加をしてきたグループに加え、星の数ほどありそうなセッション・ワーク。松永さんの演奏に接する機会は年月とともに確実に増えてきたが、しかし、考えてみると、僕は松永さんの音楽的バックグラウンドをあまり知らない。クラシックを学んでいたという話は聞いたことがある。そういえば、コントラバスのアルコも絶品だしなあ。エレクトリック・ベースを弾かせれば、最高のレゲエ・ベーシスト。タンゴではアルゼンチンのピアニストに絶賛されたらしい。でも、松永さん独特の、あの寡黙で、不動のグルーヴがどこからやってきたのかは、謎だったりする。

 そんな松永さんが初のソロ・アルバムを録音中だそう。聞きたいです。いやもうそれだけ。詳細は次号を待て。