レゲエのファウンデーションは勿論、常にレゲエの革新性も提示してきたSly & Robbieが再び盟友、Bill Laswellと制作した『Version Born』が凄い。Tricky、Black Thought (The Roots)、Killer Priest等々、強者をゲストに迎えた超ヘヴィー級サウンドが目白押しの逸品だ。

 まさに説明不要、世界最強のリズム・ツインズ=スライ&ロビー(グラミー・ウィナーだって事もお忘れなく!)の最新作は、あのビル・ラズウェルの全面プロデュース・アルバム、と聞いてアナタは何を想うのだろう? “コラボレーション”という観点では、リズム隊であるスラ・ロビはもう星の数ほどのセッションを果たしているワケで…。“異種格闘”系でいえば、イアン・デューリー、ミック・ジャガー、ボブ・ディラン、上田正樹、吉田美奈子、KRSワン、比較的最近の例ではノーダウトやDJ Krushといったところか。

“タクシー・プロダクション”でのストリクトリー・ダンスホール仕事となればもう枚挙にいとま無し。ジャズのフェスティヴァルに出たかと思えば、ドラムンベースのイベントにかり出される(ハウイーBとの作品も有り)事もあったくらい、その“需要”は絶えるという事を知らない。だから、そんなスラ・ロビの新作が“コラボ・アルバム”だという事実を知っても驚く人は殆どいないだろう。しかしながら今回は少々勝手が違う。“プロデュース”をあのビル・ラズウェルが全面的に務めている、というのだから。

 ビル・ラズウェル……80年代初頭からパンク〜ニュー・ウェイヴ〜レゲエ/ダブ〜ヒップホップといった流れで時代のカッティングエッジな音楽を追っかけてきた人にとって、彼の名前は“絶大”なものがあるだろう。好きか嫌いか、これほど評価や好みがスパっと二分されるヒトも珍しい。それだけ彼の名前に過剰に反応してしまう人はいまだに多いのだ。筆者の場合は、80年代、つまり“セルロイド”レーベルが華やかしい(?)頃はいちいちその仕事ぶりに感嘆していたクチだが、90年代に入ってからは、ジュジュカのプロジェクトやペインキラーまでで、正直避け続けてきたりする。その理由は、彼の雑食志向にあるのではなく、どこか学究的に聴こえる“まとめかた”にあったのかも知れない。

それは多分にその頃のヒップホップ……彼=ビル・ラズウェルが“面白くなくなった”といったもの……に夢中だったから、かも知れない。勿論、彼の独自の編集力、特にアンダーグラウンドから拾い上げる確かな目やアイデアには改めてその頃の作品を聴いても頭の下がる思いがするし、実際、彼の存在がなかったら…と考え出すと、恐い。“アクシオム”のカタログも『Alterd Beats』のようなターンテーブリズムに対する彼のジャーナリスティックな視点が冴え渡ったコンピにシンパシーを抱いたり、また本誌で特集された事もあるNYイルビエントの巣窟“ワードサウンド”でのスタイル・スコットとの完全出たとこ勝負のダブ・セッション『Inna Dub Meltdown』に言い知れない興奮を覚えた事もある。

 そんな両者が久々にガップリ四つで作り上げたアルバム、と聞けば年季の入ったファンの触手もググっと動くだろう。しかもタイトルは『Version Born』。スラ・ロビならでは、の題目ではあるが、どうも付けたのはビル・ラズウェル臭くない? 彼=ビルといえば、80年代にトラック/ヴァージョンの存在をより観念的に捉え、発展させようとした第一人者ではないか。しかしながら本作で聴く事が出来るヴァージョン、ダブは決してアカデミックなものではないのでご心配なく。彼ら=スラ・ロビとビル・ラズウェルの間には筆者のようないちファンが何を言おうと関係ないくらいにタイトな絆があるようだ。

このアルバムを耳にしてまず考えさせられたのがその事実、である。とぐろを巻くような黒いグルーヴ、そしてビルがプレイするギターとキーボードはマテリアル仕事ともまた一味違う“閃き”に満ちている。参加したヴォーカリストたちもいちいち魅力的だ。ザ・ルーツのブラックソートを始め、マテリアルのアルバムに続いての登場となるウータン一族のキラー・プリーストに、アンチポップ・コンソーティアムのビーンズ…シンガーでは現ブラン・ニュー・ヘヴィーズのエンディア・ダヴェンポートにイマーニ・ウズーリの名も…。そして実はスラ・ロビと相性の良いトリッキー。いずれもクロスオーバー的感覚のセッションであり、改めてスラ・ロビ、そしてビル・ラズウェルがその種の仕事で果たしてきた功績が大きい事に気付かされるのだ。

 ミリタント・ビートからダンスホール・リディムまでの歴史がそこに凝縮されているのかどうかは自身の耳で確認して頂きたい。ただここでハッキリと言える事は、彼ら(ビルを含めて)はまだ守りに入るつもりなど毛頭ない、という事。そう、これはいまだチャレンジングな彼らの意志である再合体、なのだから。





"Version Born"
Sly & Robbie
[Play / PLAY-008]