ヒット・アフター・ヒット…昨年からのウェイン・マーシャルは、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでヒット・チューンを量産。そんなウェインがビッグ・チューン満載の待望のファースト・アルバム『Marshall Law』を遂にリリース。早速、超多忙を極める彼にインタビュー。

 「笑い話をしてあげようか? この間、DJ対シンガーのサッカー試合をした時、俺がサッカーが上手いものだから、DJチームのエレフェント・マンが“お前はこっちだ”って言い出して、スリラーUやトニー・カーティスとかのシンガー・チームが“いや、奴はシンガーのはずだからこっちだ”って言って、両方から腕を引っ張っぱられたんだ(笑)。で、俺はやっぱりシンガーなのかなって、自分でシンガー・チームに入ったんだけど」

 歌とシングジェイが得意なDJなのか。DJがやたらに上手いシンガーなのか。ウェイン・マーシャルが何者なのか、シングル単位で聴いている分にはちょっと判別しづらかった。本人によると正解は「DJも出来るシンガー」なのだそう。「5年間のキャリアでの成長を全部入れているから、デビュー・アルバムとしてかなりの出来になっていると思う」と本人が胸を張って言い切る『Marshall Law』は確かに新人離れした幅の広さを感じさせる。

トラックは最新、ヒップホップへの近寄り方、歌/シングジェイ/
DJと自在にシフトする器用さなどなど「目新しさ」が全編を覆っているのだけれど、全体は熟練レゲエ・ファンも安心して聴ける正統派な仕上がりだ。この離れ業をやってのけたマーシャルの音楽的ルーツ。「バーリントン・リーヴィの歌唱方法、メロディーの乗せ方には影響を受けてるね。アイニ・カモーゼやマイケル・ローズも大好き。もちろん、ボブ・マーリーも。彼のおかげでレゲエ・アーティストがリスペクトされるようになったわけだから」

 キング・ジャミーの自宅の近所に引っ越したのが運の尽き。大プロデューサーの息子と親友になり、中学時代からジャミーズに出入りするように。中流階級の育ちだが、スタジオに集まるハングリーなアーティストらと競ってマイクを奪いに行く青春を過ごす。高校時代のヒーローはバウンティー・キラー。そのバウンティーが、マーシャルの可能性にいち早く目をつけてくれた人でもある。彼のビッグ・チューン、「Smoke Clears」にフィーチャーされたのは大きかった。

「ずっと憧れていた人だから、一緒に仕事をするようになったのは今でも信じられないよ。音楽的には言葉の紡ぎ方を、人付き合いの面では基本をきちんと守ることの大切さを教わった。プロフェッショナリズムやレゲエ・アーティストとしてきちんとリスペクトを得ることの大切さも教わったよ」。もう一人、目をかけてくれたのがエレフェント・マン。「彼からはステージ上でどうやってエネルギーを放出するかを学んだ。自分が100%観客にエネルギーを出したら、観客も100%返してくるし、自分が120%のエネルギーを出したら、120%返ってくるもんだって。二人から教わったことをきちんと実践していけば、何年かいいパフォーマーになれると信じてるんだ」


 自然に耳に入って来たヒップホップをジャマイカ流に消化できる世代に属する。アウトキャスト「Whole World」の替え歌は、もとはダブ・プレート用で本人はシングルにする気はなかったそう。「ヒップホップの吸収力は10年前とは全然違うだろうね」と認めつつ、「でも」と話を続けた。「レゲエのミュージシャンにも、すごく才能と実力がある奴がいるよ。“ディワリ”を作ったレンキーなんて、毎日ピアノでクラシックを3時間弾いて練習してたんだよ」。そのほかに、成功する秘訣を訊いてみた。「流行る前にどのリディムが来るか、聞き取れる能力も必要だね。たくさんある中で3、4のリディムを選び取って、ビシッと集中して作れること」

 ライバルの名前をなかなか挙げない、おっとりとした性格。レゲエ以外で好きなアーティストにシャーデーを挙げる。「今、彼女のコンサートを観られるなら、2,000ドル払っても惜しくないない」と興奮気味に言う。「小さい頃は彼女の歌声を聴くのが怖かった。ほかの空間に入り込んでしまうような、すごく不思議な気持ちになったから。ボブ・マーリーもそうだね。そうやって人の魂の部分に触れられるのが、本物のアーティストだと思う。最近、俺の歌を聴いているうちに涙が出て来たって言ってくれた人がいてね。嬉しかったよ。それが出来るなら世界進出だって大丈夫って気になった」

 98年、自動車事故に遭い、自分はかすり傷で済んだのに隣に座っていた友人が亡くなった。それで、人生観が変わった。一生懸命やらないと、その友人に申し訳ない。

 「俺の音楽はモティヴェーション・ミュージック。人々がやる気を起こす音楽を目指している。だから、トピックも幅広い。もっとがんばろう、明日はもっといい日にしよう、という気持ちになれる音楽を作っているつもりだ。人々にインスピレーションを与えられる音楽をね」

 チュー、チュー、チュー(True, true, true)。大丈夫、その点はきちんと出来ているから。




"Marshall Law"
Wayne Marshall
[VP / VPCD1646]