Who Control Di World? これぞレゲエ、Rebel Musicだ! 聞いてみぃ、バリバリ硬派なこのリリックを! 更に一回りスケールアップした“ハマの兄貴”の新作『World Leader』は、超がつく程の問題作。「誰も歌わへんなら、俺が歌ったる」(本人談)。

  昨年、重音(DUB)生活20周年を迎えた、こだま和文。彼のソロ・プロジェクトとなる“KODAMA (ECHO) FROM DUB STATION”のニュー・アルバム『A SILENT PRAYER』が完成した。エンジニアとして内田直之が加わった新生DUB STATIONとしての初アルバムとなる本作。いろんなところで語られていると思うが、ジャケットに使用されているのは、2年前の9.11のテロが起こる数時間前に、こだま自身が撮影した東京の空だという。そうした前情報や、『A SILENT PRAYER』というタイトルを前にして、なんといおうか、正直どんな心持ちでこの作品と向かい合うべきなのか、音源を聴く前まで思い倦ねていた。しかし、1曲めの「La Birds Rock」、続く「Sketch Of 7th Avenue」のやわらかく染み渡るタッチに、僕のなかにあった気構えはやさしくほぐされていった。

 「9.11.の事件があって、この2年の間にイラク戦争までいったわけでしょ? 他にもいろいろあって、こう、気分がよくないことばかり続くといろんなことを考えるんだけど、考えてもしょうがないところまで考えてるよりも、音に向かったほうが、なんか凌いでいけるっていうかね……それで、とにかく機材の前にいる時間がすごく長くなって。不思議なもんでね、これ以上はマズいなってぐらいに気持ちが沈むとさ、嘘でもいいから陽が射す感じが欲しくなるっていうかさ。そこで今までの自分にはあまりなかったような、メジャー進行の曲が生まれてきたんだ。

あからさまに重さをもった曲よりも、こういう軽さを出した曲のほうが、聴き方によっては哀しかったりするのは作ってみてわかったんだけど……とにかく今まであんまり作ってなかったタイプの曲だから、違うところ開けちゃったなって感じがあって。そうすると、自分の中にはまだ開けてないドアなり窓なりがあるんだろうなって思えてきて。なんというかさ、現実的にはすごく八方塞がりのような気分だから、自分の気持ちのなかにある開けてないところを開けていきたい……そういう感じですね」  曲がすすむにつれ次第に深みを増していくこだまの静かな祈りは、MUTE BEAT時代の代表曲のセルフ・カヴァー「Still Echo」で、空に放たれる──この『A SILENT PRAYER』の制作において、「Still Echo」のカヴァーは、こだまに新たな発見をもたらしたという。  

「ちょうど昨年の夏の終わりぐらいかな……『NAZO』が完成したあと、わりとすぐに作りはじめたデモがかなり貯まって、最初のプリプロをやったんだよね。そのとき、なぜか「Still Echo」をカヴァーしようと思ったんだ。この曲は、MUTE BEATを結成してすぐに作った曲で、何度もレコーディングし直してるから、完成型がいくつもあるわけですよ。だけど、それを全部捨てて、純粋にメロディだけを引っ張って来て、それを今の自分だったら?っていうところでやりだしたら、これが大変なことで。

20年間レゲエとかダブをやってきて、一番得意なアプローチがあるんですよ。そういう、自分なりの黄金律を捨てることで、自分の中の音楽の、これからすすんでいくカタチっていうかさ……それが「Still Echo」をカヴァーしたことで見つかった。いつも見えてることを見えてるようにやっても、自分の音楽は新たに始まっていかないってことに気付いたんですよ。そしたら一気に他の曲もタッチが変わってきて。だから、それまで作っていたものをすべてやり直した……楽器じゃないし、フレーズだけの単純な問題じゃなく、もっと深い音の捉え方というか。今まで握りしめていたものを手放すことで、カタチとかこだわりみたいなものじゃないところの、自分の求める音の響きだけが残っていくんだ」  節目の年を迎えた直後に届けられる作品が、長いキャリアを誇るこだまにとって、新たなスタートを感じさせるフレッシュなものとなった意味は大きい。

 「みんながベスト盤やリイシュー盤を作ってくれたり、ライターの人がいろんな言葉を書いてくれたりしてね。そういう中で自分なりに20年やってきたことを、どこかで確かめようっていうか、ケリをつけようっていうか……今思えばそういうことだったのかもしれない。やっぱり自分の中ではキャリアってものを意識しないし、できない。今の僕の気持ちからいうとアルバムごと、1回のライヴごとに自分自身をリセットしていく感じなんですよ。今、ライヴに来てくれてる20代の前半の人たちは、DUB STATIONになってからの僕を見てくれてるわけで、それがすごく支えになって、今やってることの、自分の曲をさらに聴いて欲しいっていう気持ちが生まれてくる。目の前にいる20代の人たちに、僕は昔こういうのをやっていたんだよって言ったところで、それは大して自分を支えるものにはならない。それよりも、目の前に来てくれている人や、今の自分の作品をたまたま聴いてくれた人とどうしていくか?っていう……それは大変なことではあるけど、すごく開放された感じがするんだ。レゲエやダブやヒップホップを好きでやってるとさ、これはもう目の前にいる人はつねに20代に成り得るわけで。自分自身の実年齢は年をとっていくけど、アーティスト年齢は年をとれない(笑)。だから、さらにフレッシュなところに自分を持って行かないと……そう、スタンダードにはなりたくない。でも、なれないからシンドイんだよ(笑)」

 そうしてこだまは、今日もまた新しい一歩を踏み出している。ワン・ツー、ワン・ツー、みんなにワン・ツー……ワン・ツー、ワン・ツー、自分にワン・ツー……。




"A Silent Prayer"
Kazufumi Kodama
[Speedstar / VICL-61 150]