“ゲットー・プロデューサー”または“レベル・プロデューサー”と称されるナイニー・ジ・オブザーヴァーとは…?  彼の本名はウィンストン・ホルネス。モンティゴ・ベイで生まれ、祖母と一緒に暮らすためハノーヴァーへ移り、そこで高校生バンドに加入する。「ナイニー」の由来は、若い頃、工場でのアクシデントにより親指を失い、「ナイン・フィンガー」のニックネームを付けられて、それが縮まって「ナイニー」。就職先として観光客相手のホテル・バンドに入る道もあったが、彼はキングストンへ出てレコードの広告マン、セールスマンとして音楽業界入り。

アンディ・キャップ「Pop A Top」、デリック・モーガン「Fat Man」のセールスなどを経て、フリーランサーの音楽制作業を始める。彼はバニー・リー、ジョー・ギブス、コクソンら、様々なプロデューサーの所へ行っては曲を提供。中でもジョー・ギブスのところでは、リー・ペリーのあとを継いでセッションを取り仕切るようにまでなったという。その反面、彼は多くのプロデューサーから阻害され、ついに自身のレーベル、オブザーヴァーを立ち上げる。

1970年のクリスマスには代表曲となる「Blood & Fire」をリリース。だが今度はこの曲に盗作の疑いが掛けられ、ウェイラーズと仲たがい……。以上、デヴィッド・カッツが書いた(1)のライナーを参考にして経歴をざっと洗ってみたが、このライナーをじっくり読むと、ナイニーはいつも強引で、それゆえに強運を掴んできたものの、その豪快さが衝突を産んでずいぶんと波乱万丈な人生を送ってきたようだ。ナイニーの作り出す音がかくも荒々しいのは、この熱い性格が出たものなのだろう。

 「Blood & Fire」は71年に大ヒットとなり、彼はオブザーヴァー・レーベルを舞台にレベル・プロデューサーと呼ばれるようになっていく。73年「Westbound Train」、74年「Cassandra」を始め、デニス・ブラウンを起用した作品群でヒットを連発。昨年、モーションからリイシューされた(1)『Sledgehammer Dub』は、デニス『Deep Down With Dennis Brown』のダブ盤で、77年に400枚ほどしかリリースされなかったもの。チナ・スミスのギターがリードを取るソウル・シンジケートのスタイルは、かなり戦闘的である。CDにのみ収録のボーナス・トラック「Tenement Yard Version」は、UKのディサイプルズがデニスの「Tenement Yard」をサウンド・システム・ダブプレート・ミックスとして加工した、シンプルだが相当ヘヴィーなダブ。こういうのこそ爆音で聴きたい。

 (2)の『Dennis Brown In Dub』は、ナイニーがプロデュースしたデニスの曲をキング・タビーがミックスしたもので、「Come Dub (Here I Come Again)」などが収録されてるオススメ盤。中でもトミー・マクックらの分厚いホーンがマイナー・キーのリディムを固め、サンタ・デイヴィスのフライング・シンバルが執拗に続くファンク・ステッパー「Sir Niney's Rock (Give A Helping Hand)」は必聴。上記2枚に限らず、オブザーヴァーのダブはほぼキング・タビーだが、そのタビーが自分のサウンド・システムのために作っていたという別ミックス(未発表音源)が聴ける(3)『Bring The Dub Come』もナイス。ナイニーはダブワイズされることを前提に音を作っていたらしいが、だからダブはこうも攻撃的なのだろうか。キング・タビーのミキシングに負けないくらいナイニーのプロデュース・センスは素晴らしいと、このアルバムを聴くとつくづく感じ入ってしまう。70年代のナイニーの軌跡をダブとインストに絞って追った(4)『Head Shot』、最近PKレーベルからリリースされた10"シングル(5)もぜひチェックを!



(1) "Disco Dub"
[Gorgon]



(2) "Gamblers Choice"
[Taxi]

(3) "The Sounds Of The 80'S"
[Taxi]

(4) "Taxi Wax"
[Taxi]

(5) "Turbo Charge"
[Taxi]