それぞれ別々の会社の車のCMに、R・ストーンズの「サティスファクション」と「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」が使われている。広告代理店の担当者が「この春久々に来日公演がありまして、もうチケット完売ですし、楽曲はストーンズ物でキマリでしょ」とでもプレゼンしたのだろう。新種のタイアップ、情報操作の類かも知れない。ストーンズ・サイドがどこまで認知しているのかはわからないが、共にオリジナルではなく、前者はスライ&ロビーのカヴァーだ。

ただし、オヤッと思わせるイントロのギターは、なぁんだキース本人が参加しているではないか。そのキースが真ん中で、両脇にスライとロビーが写っていた『PLAYER』誌のグラビアをよく覚えている。キースの着ている例のジョンソンズの皮ジャンパーを真似して買って、そのページを破り、胸のポケットにずっと入れっぱなしにしていたからだ。普段はニート?なオレがなんでそんな服を着ているのか怪訝な顔をする回りの仲間に説明するのに、それさえ見せれば事足りた。そのジャンパーはついこないだまで、つまり20年近く持っていたが、新宿オープンのスタッフにあげてしまった。少々後悔している。ヤフオクで今日現在、10万するからだ!でもオレのは、今で言うなら原宿のビルケンシュトック辺りでゲットしたのだから、コピー物だったかも。モッズの森山君、まだ持ってますか?
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 んなこたぁどーでもいーが、スライとロビーのキャリアを振り返ると、例えばロビーが現在ストーンズのメンバー(正式であれ、ツアー・メンバーであれ)であっても全然おかしくない、いやむしろ、ベーシストをオーディションするにあたって、キースの頭にロビーのことが思い浮かばなかったと考える方がよっぽど不自然だ、ということ。結論も先に書いておくなら、石になどならずに良かったね、あなた方の履歴は全くもって素晴らしいということである。

 そのキャリア〜業績を概観すれば、ざっと以下のようになりそうだ。(1)チャンネル・ワンのレヴォルーショナリーズをメインに、キング・タビーズでのアグロヴェイターズ、ジョー・ギブスのプロフェッショナルズを含めた、スタジオ・バンドのメンバーとして、ダブ・アルバムでも活躍した時期、70年代半ば過ぎ。これは、アルバム5枚を選び、例えばこのページにジャケットを並べるのは、全く簡単。近い将来、誰か若い人が書けばいい。(2)スライ&ロビーを名乗り始め、タクシー・プロダクションを作って、アイランド・レーベルのコンパス・ポイント・スタジオなどで派手に活動、80年前後=今回後半で僕が取り上げる。(3)80年代前半の異種格闘技セッション。ストーンズ〜ミックのソロはもちろん、B・ディラン、I・デューリー、H・ハンコック、M・ディバンゴ。中でもグレース・ジョーンズの「プル・アップ・トゥ・ザ・バンパー」がパトラにサンプリングされるなど、リズム解釈の先見性が証明されることになった。(4)そのセッションの秀逸ぶりが、日本人のアーティストにも伝わったこと。ヨーコ・オノ、上田正樹、渡辺香津美、吉田美奈子らが、このリズム・コンビに憧れ、録音参加を依頼。近い例を挙げればプシンまで続く。

 80年代後半からは、僕も全てフォローはしていないが、(4)『ランゲージ・バリア』(ちなみにサングラスはイッセイ・ミヤケ!)や『サイレント・アサシン』など、印象の強かったアルバムを含め、5枚のCDを選ぶのは容易いだろうし、(5)『マンボ・タクシー』や『カリブ・ソウル』など、企画物だけでなく、アンソニー・B、ビーニー・マン、ノー・ダウトと、成功したプロデュース作も多かった。すなわち、スライ&ロビーとは「切り口」の実にたくさん用意出来る=活動時期も幅も広いアーティストなのである。
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 79年の(1)は、チャンネル・ワンの録音だから、もし1〜2年前に出ていれば、確実にレヴォルーショナリーズ名義になっていたはずのアルバム。「まだ」ダブをやっている、しかもヘヴィー級の。逆に彼らの知名度の高さゆえ、この逸品が無視されているなら勿体ない。ところが、タクシー・レーベルの(2)になると、ここがスライ&ロビーの凄いところだが「もう」ダブとは呼びにくい。抜き差しされているのはA面1曲目「ポーカー・フェイス」だけ。あとはトラックのみ、ほとんどそのままなのではないか。僕は(1)(2)、そして(3)も、81年4月に、ロンドンの、今の場所に移る前のダディ・クールで買ったが、(2)のレーベルがAB面逆に貼ってあったことに今日まで、22年間気付いていなかった。ショック! シンドラムの耳障りなほど入った(2)だが、スライもまだ「手弾き」ならぬ「手叩き」、機械ではなく、ヒューマン・トラックだというところに、妙な興奮を覚える。

 スライのソロ・トラックや、D・ブラウン、J・ライリー、B・ウフル、タムリンズ、J・デルガドを含むオムニバス(3)になると、楽曲も一気にパワー・アップする。タムリンズは必殺の「バルティモア」だし、ウフルは「招かれざる客」、デニスは「シッティング&ウォッチング」と、それぞれの代表作ばかりなのだ。このクラスだと、後半、もしくはB面がしっかりダブになる12インチをコレクトしたいところだが、レゲエ・クラブに行けばいつでもかかっているはずだ。ジャケットはややダンスホール・ライクな(4)も、時期的にはほとんど変わらないコンピ。シュガー・マイノット「デヴィルズ・ピックニー」が欠かせないが、K・ブース、L・レプキ、C・リヴィングストン、ストラグルと、面白い陣容。

 83年に、普通に日本でゲットした(5)もレーベル・サンプラー。S&R、タクシー・ギャングの3曲に、ローランド・バレル+イエローマン、デニス、ライリー、ウフル、タムリンズ。この前後からまた時代がひとつ進化しているとすれば、それはターボ化=エンジニアにスティーヴン・スタンリーの名前が登場することにある。確実に「抜け」の良くなった、頭のスッキリするサウンドがタクシーの特徴だった。

 まだ名前の出ていないアーテイストでS&Rがかかわったものとしては、それこそストーンズ・レーベルを含むP・トッシュ、G・アイザックス、ソニア・ポッチンジャーの下でのカルチャーあたり、またウフルだけは、さらにリコメンドする必要があろうが、アイランドの『チルアウト』や『アンセム』は、聞いておかなければお話にならないし、あまり成功しなかったが、同レーベルではI・カモーゼも肩入れした。スライのソロ・アルバム、79年の『スライ・ウィキッド&スリック』、82年作『スライ・ゴー・ヴィル』は今でも聞ける。



(1) "Disco Dub"
[Gorgon]



(2) "Gamblers Choice"
[Taxi]

(3) "The Sounds Of The 80'S"
[Taxi]

(4) "Taxi Wax"
[Taxi]

(5) "Turbo Charge"
[Taxi]