あの大好評アルバム『ウワサの真相』を下敷きに制作されたセッション・アルバム『ウワサの伴奏』がリリース。単にセッションという意味合いだけでなく、ヒップホップの在り方さえも見つめ直すような貴重な作品と言えるだろう。さっそく各曲解説を。


 画期的であるということ以上に“遊びゴコロ”が伝わってくるアルバムだ。タイトルにもある通り、このアルバムは前作『ウワサの真相』から幾つかの楽曲を“生演奏”で歌い直したものであり、またその一曲一曲が各々違ったバンドと2MC+1DJのコラボレーションである。

この点からも本作がタダのリミックス・アルバムではない、ということがお判り頂けるだろう。しかもその“アプローチ”は、ブレイクビーツのリメイクの上に乗っかる、というパターンではなく、あくまでもそのバンドのスタイルに合わせつつ“セッションとして成立したものを残す”というモノ。

煮詰め方(アレンジ)、録り方(レコーディング)の違いは各々ではあるが、どの曲からも“その場を楽しんだ”感は十二分に伝わってくる。では一曲一曲を足早に紹介するとしよう。

●「勝算(オッズ)」……言わずと知れたコーラス・グループ=ゴスペラーズの計算され尽くしたアカペラ・ハーモニーに、2MCとドラム・ブレイクを重ねた曲。ゴスペラーズとの関係は知る人ぞ知る通りで、ライムスは彼らのアルバムに参加した事も。ここでは、肉声バンドとして活躍。

●「ロイヤル・ストレート・フラッシュ」……キャリア35年以上となるビッグバンド=高橋達也と東京ユニオンとのセッション。サビを聴くだけでこの人選がどれだけ的を得ているかよく判る。が、「これぞビッグバンド・スタイル」的な細かいアレンジを含め楽しみドコロ多し。

●「肉体関係 Part2 逆featuring クレイジーケンバンド」……シングル・カットされた新曲。Part2となっているのは、元曲がこのCKBのオリジナル曲であるからで、また逆feat.となっているのは、その元曲がインストであったからで…。その発想的にもかなりヒップホップ! 只今絶好調のCKB、横山剣のパートは踏んでくる感じを含め最高。DJジンの詩人ぶりも味わえる。

●「This Y'all That's Y'all」……いつも弾けてるファンク・ロック・バンド=スーパー・バター・ドッグとの一発録り的なスリリングさが光るセッション。永積タカシのファンキーなVo.とのかけ合いもスーパー・フレッシュ。黒い伴奏を含め不思議なくらいの一体感が…。元曲のオールド・スクール・テイストをまた違った角度から引き出したような…。因みにマミー・Dはかつて彼らのリミックスを手掛けたこともあった。

●「Walk On」……ラウド系云々といった枠を越えたロック・バンド=ブラフマンの中心人物Toshi-Low(海外コラボも)とのコラボ。この組み合せを不思議がる向きもあるだろうが、ステージをシェアしたこともある浅からぬ縁もある。“主役”であるDJジンのパートでいかに上げてくか、というエモーショナルなサウンドが流石。何故かR.E.MとのKRSのコラボを思い出した。

●「プリズナーNo1、2、3」……オルガン・バンド=アクアピット&大沼ようすけとの合体。ストーリー物のリリックが映えるめくるめく展開に鳥肌立てる人もさぞかし多いのでは…。何故ヒップホップのオケにジャズがよく用いられるのかが逆説的に判るような貴重なセッション。

●「The Show Stopper」……元スカパラのマーク林率いるご存知ブルー・ビート・プレイヤーズとのセッション。という事でスカ・トラックをイメージする人が大半? でも“結果”はアフロセントリックなファンクで、ブルー・ビート・プレイヤーズの味もしっかり出てる、という凄まじさ。2MCのタイトル通りのパフォーマンスもかなりナチュラル・ハイ。独特な毒も出てますよ、ハイ。

●「ウワサの真相」……ライヴでもドッキングしたワック・ワック・リズム・バンド(過去に“トラットリア”からもアルバム有)とのセッション。大ネタ再現にも定評のあるWWRBだけにトータルでの勢いもバッチリ。オリジナルを同じくF.O.Hをfeat.しているが、その原曲とのニュアンスの違いにも注目したい。

●「ライムスターイズインザハウス(Live)」……オーラスはライムスター・オーケストラのマエストロ=DJジンのターンテーブルだけをバックに、ディレイの効いたマイクで聴かすブラン・ニュー。オールド・スクールなようで、実は新しい試みもチラリ。やはりこの味はバンドでは出せないモノ。

 という全9曲46分20秒…プラモ(TAMIYA?)みたいなアート・ワークも楽しいこのアルバムは、音楽の持つ楽しさ、と背中合わせの難しさ、そして可能性をさり気なく見せると共に、ヒップホップの根源的魅力とは何ぞや?という核心もしっかりさらけ出している、もう純然たる“新作”になっているのだ。Kenさんならずとも「イーネ、イーネ、イーネ!」と思わず口にしてしまう事必至。