まる一年がかりで行なわれた「大和Recordings Tour Vol.2〜47都道府県ツアー」も無事終了し、集大成的な三木道三の東京、大阪公演のライヴのベストテイクを集めたCDと、大和Recordingsのメンバーが全国各地を周った模様を収めたDVDの2作品がリリースされる。そこで大和Recordingsの主宰者である山本氏に、全国ツアーの事、大和Recordingsの今後、そして気になる三木道三の活動休止宣言など、気になる幾つかの事柄について訊いてみた。

" 三木道三 Live! "
大和Recordings Tour Vol.2
「47都道府県ツアー」Final
[WPC7-10156]

大和Recordings Tour Vol.2
「47都道府県ツアー」DVD
[WPB7-90011]

 ●まず大和Recordingsの発足当時の話から伺いたいのですが。
山本(以下Y):94、5年位に地元大阪で本格的に音楽活動に力を入れ始めた頃、僕らを取り巻く音楽環境は色んな方面でまだまだ「〜じゃなきゃダメ」という事が多かった。例えば「ヒップホップはダメ」とか「レゲエじゃダメ」とか「東京でなきゃダメ」とか…。その頃、やる事全てに「何でダメなの?」という疑問とか、時には失望する事まであった。そっから先活動していくに当って、既存のシステムや方法に頼ったり、迎合しなくちゃいけないのか?って悩んだ。そんならレールに乗らない分大変やけど、自分達の方法を探してみよと。そんなら、その方法はどうやって作っていくか?って。同時に僕は、その頃には三木道三がオリコン1位になって100万枚ぐらい売れる力があるっていう事も直感で感じてた。で、98年頃には自分達で納得できる制作環境や活動環境を作ろうという思いが高まり、構想を練って、99年の終わり頃に大和Recordingsという自主レーベルを立ち上げました。当時は既存のシステムや常識にハジかれる中、「どうせやるなら“完全なる亜流”を目指したる!」という気持ちまで持ってた(笑)。

●その“亜流”ってのをもう少し話して下さい。
Y:僕の思う“亜流”って単に迎合する感じのフォロアーじゃなく、また常識を否定するばかりのアウトローって事でもない。今までのやり方は認識しつつも自分達流の部分も工夫して組み込んでいく事。その結果、今までのそれ(常識)以上の事が起こるかもしれないと。それが“完全なる亜流”って感じかな? 「こうするもんだよ」とか「そうじゃないでしょ」とか、世間で当り前や常識になってる事って多分、その方が無難やったっていう程度の事が多くて、それが常にベストやとか正解ばっかしやとは限れへんと思うねん。住んでる場所も違えば、感性も人それぞれ違うし。そこでは正解であっても、場所が違えば答えも違うという事が結構あると思う。だからといって何から何まで常識=本流を無視するのは違うと思うねんけど、中には僕ら的にアレンジや工夫できる部分もあるんじゃないか?って。もっと言うと、僕らに何か欠落している事があるとすると、その欠落してたからこそできた工夫により、新しい方法や技術とか何かが見つかる事もあると思うねん。僕らにしかできへんやり方でやってみた事が結果、その後の常識になるかも知れんぐらいの。それが時には世間やレコード会社からすれば“亜流”って捉えられても、いつか“本流”になるかも知れん。僕としては音楽も含めてクリエイティヴな事ってそこら辺が醍醐味やとも思ってるねん。そういう考えや動きをしてると時には逆風もあるけど、「人間万事塞翁が馬」で結果良かったっていう事も経験上多いしね。この「完全なる亜流」っていう事に関しては、今後ももっと追求していきたいです。

●Riddim 234号に「大和Recordings第一期を締め括る」とあったのですが。
Y:元々大和Recordingsの構想を練っている時に、立ち上げの第一期のテーマを「体制作り」と定義しててん。僕と三木が理想とする制作環境とかリリース環境とか、色んな意味での体制を一から作ろうと考えてた。で、その自分達で作った体制で2年ぐらい動いてみて、第一期で達成したいなと思ってた目標が内容的にも数字的にも大体クリアできた。この「47都道府県ツアー」をやって第一期は終了、第二期に移るって事も当初から大体思ってた通り。実際このツアー終了時点で僕ら的にはまずまずできたんじゃないかなと思う。これからの第二期は、第一期での反省点や強化する点も含みつつ、「継続」や「発展」、「充実」をテーマにやっていこうと考えてます。

●その1年間にも及ぶツアーはどうだったんですか?
Y:大きなトラブルもなく楽しかったです。でも正直長かった(笑)。実際企画段階からすると2年近くになる。丁度「Lifetime Respect」のヒットがあった後やったから、色んなおいしい話もあってんけど、ツアーを優先させてたから乗り損ねた(笑)。でもあんなヒットがあってから全国を一箇所ずつちゃんと周れたっていう意味は大きかった。全国各地にサウンドがあるって事やサポートしてくれる仲間がいるという事に改めて感動しまくった。みんな、ありがとう!

●そして三木道三の事ですが、「三木道三としての活動を休止し、充電期間に入ります」と書いてありましたね。その真意を教えて下さい。
Y:三木道三というアーティストがその表立った活動を休むだけで、三木個人の動きが止まるという訳じゃない。今後、ジャマイカも一緒に行く事もあるやろうし、大和Recordingsの若手の制作も一緒にするかもしれん。僕も最初三木に「歌うの休みたい」と言われた時はびっくりしたけど、音楽だけが彼の人生じゃないし、彼なりの色んな考えもあるやろうし、個人的な切磋琢磨は今後も続けるやろうしね。僕個人としては色々考えてみましたが、三木がまたやりたくなったらやれば良いと。大和Recordingsの他のメンバー達も三木の判断を理解し、前向きに捉えてますよ。だから「三木道三としての活動は休止します」としか発表してない。僕や三木個人としては今回の三木道三活動休止って事で生まれる時間をそれぞれ有効に使おうって感じですね。ゆっくり休んでもらって、またいつか一緒に“濃い”事をしたいです。

●今後の大和Recordingsの展望は?
Y:第一期、主に三木道三の活動を通して出来たノウハウを活かして、若手を順次デビューさせていきたいです。もちろんそれぞれの個性に合わせた工夫は一からして行かなあかんねんけど。メジャーと組んだ大きな展開って凄いと思うけど、自主レーベル的な動きにも改めて魅力を感じてます。イベント、ミックス・テープ、CDと自分達だけでやってきた事を忘れたらあかんし、それを基本やと今でも思てるし。今後この2ウェイをうまく使い分けて行く事も第二期の大きなテーマになると思います。あと、全てに関して如何に閉鎖的にならないようにするかっていうのも今後の課題ですね。大和Recordingsとしても僕個人としても、もっと色んな事に挑戦したいし、経験したいし、まだまだ大きな展開も想像してるんで。それともう一つの課題は、色んな仕事やプロジェクトを進める上で、その過程や風景を仲間や家族と一緒にもっと楽しんでいけたらなって事。第一期は仕事し過ぎた(笑)。

 今回の取材で、ここには収まりきれないほどの話を聞かせてもらった。山本氏の人間形成に纏わる話、哲学的な事、三木道三との個人的な話等々。個人的には色々と考えさせられるインタビューになった。