1999年12月号

1. DJ AMEKEN / Slow Burning (えん突つ)

Akaime PPのDJアメケンのニュー・ミックス・テープ(DJパトリックの新作もチェックした?)が面白い。サイドAは所謂マイアミ・ベース〜オールドスクール・エレクトロで、「Reckless」から「My Boo」迄、といった感じでグイグイ腰が動いてしまうタイトル通りの内容になっている。対するB面はダーティ・サウス発のクラブ・ヒット物でまとめられていて、バウンス好きには堪らない流れ&ミックスに。サウス物のテープはここ一年で色々出回った感があるが、間違いなくコレがベスト。

2. JAY-Z / The Blueprint (Def Jam)

ジェイZの通算6作目。常に何らかの露出がある為、ブランクを感じさせないばかりか、キッチリ1年間隔で新作を出してくる辺り、流石はジガ。ただ“フロア向けチューン”満載の前作との違いは、そうしたトラックを4〜5曲にし、あとは自分のリリカル・スキルを見せ付ける“泣き”の効いた曲で新たなファンをガッチリ掴んでいる。珍しくゲスト参加曲はエミネムとの「Renegade」、Qティップ、ビズ・マーキー、スリック・リックがコーラスでのみ参加した「Girls...」の2曲のみ。勿論バトル中のNas、プロディジーをやっつける曲もあり、風格の漂う一作に。聴き応えアリ!

3. V.A. / FB Entertainment Presents Goodlife (ユニバーサル)
Bボーイご用達のウエア・ブランド=FUBUがいよいよ音楽業界に参入。“ユニバーサル”とのジョイントでFBエンターテイメントとして制作した第一弾は、FUBUの広告塔として知られるLLクールJとキース・マーリィ、リュダ・クリスによる「Fatty Girl」やNas、ネイト・ドッグ、JSによるタイトル・トラック「The Good Life」、そしてロスト・ボーイズのMr.チークスの「Lights Camera Action」としったシングルでお馴染のクラブ・ヒットが中心のお得盤。しかもFB所属のニュー・アーティストや、ビーニ・マン、スーパー・キャットからR&Bまで幅広くブラック・ミュージック・シーンの今を押えた内容となっている。
4. DILATED PEOPLES / Expansion Team (EMI)
ウエスト・コーストのギャング系ではないヒップホップを代表する存在(最早アングラではない)と言える敏腕職人3人組=ダイレテッドの2nd。今回はメンバーのエヴィデンス、DJバブーの各々の制作曲が充実しているだけでなく、売れっ子アルケミストやDJプレミアにビート・マイナーズ、ジュジュ(ビートナッツ)更にはクエスト・ラヴ(ルーツ/ソウル・クエリアンズ)らもトラックを提供し、アルバムの完成度を上げている。タイトなMCのコンビネーション、意味深なリリックス、何よりも反応してしまうビーツ、そして的確なスクラッチ…とヒップホップの魅力を凝縮したような力作。今年のベスト・アルバム候補!

5. LISA LEFTEYE LOPEZ / Supernoba(BMG)

TLCの“ラップ”兼ヴォーカル担当のレフトアイことリサ・ロペスの初ソロ作。メソッドマン他のアルバムで“ラッパー”としての器も披露していた彼女だが、“ソロ”だけに実にイキイキした表情を見せている。先行カットはサラーム・レミの制作によるクレイジーなバウンス・チューン「The Brock Party」で、続いては“旬な男”=ロック・ワイルダーによる「Hot」とフロア・キラーがズラリ。カール・トーマス、ブラック・アイヴォリー、ジャジー・ファーといった渋いゲスト陣もバランス良く配合。“歌物”も当然アリ。

6. V.A. / The 41st Side(マンハッタン)
世界的に見て常に新しいスマッシュを発信し続けているクイーンズから、『QB Finest』に続く強力アルバムが登場。その名も“41st Side”(CNNのカポーンが下げている“ヘッド”に注目してた人も多いのでは?)。シングル曲のNas&レイク「Let'em Hang」を中心に、その注目株=レイクの他、モブ・ディープ、CNN、ビッグ・ノイド、ネイチャー、トラジェディといったクイーンズの外せないサグMC達が集結し、ビーツの方もアルケミスト、ハヴォック等、クイーンズならではのドープな人選で、“あの音”を期待する向きも100%満足させる好内容。

7. FAT JOHN THE AMPLE SOUL PHYSICIAN / Wave Motion(トライエイト)
ムード、ローン・カタリスツ、ファイブ・ディーズらを擁するオクラホマ州シンシナティをベースにしたヒップホップ哲学者コネクション=ワナ・バトル・クルーの一員で、ファイブ・ディーズのトラックメイカーとして鋭い仕事を見せてきたファット・ジョンのソロ名義作。最近では『Supperrappin The Album Vol.2』にもトラックを寄せている彼の持ち味は、その類い稀なるサンプル・レイヤーの構成力にあると云っていいだろう。真にソウルフルなそのサウンドは昔のピート・ロック辺りが好きな人(あとアンスポークンハードとか)にはまず間違いないクオリティ。

8. DJ QUIETSTORM / Damare(シスコ)

パーティ“Tight”、ライヴ・ユニット=消音鬼での活動や、ミスティック・ジャーニーメン等でのプロデュース、そして『裏タグス』等のミックス仕事で知られる東京在住のDJクワイエットストーム待望の自己名義作。DJアッパーカットやDJマーズ、シュガー吉永、消音鬼のジョンにトミー・ゲレロ等、国内外の多彩で濃ゆいゲストとのセッションを含む同作は、クワイエットストームというどこまでもオリジナルな音楽家の理性と本能が渦巻く超大作、となっている。『ダマレ』という題目が全てを象徴しているようなマインド・トリップ・ミュージック。素晴らしい。

9. DEV LARGE / Soul Traveling(ビクター)
ビクターの隠れた名盤掘り起こしシリーズ“ソウル・ウォーカー”の第1弾としてデヴ・ラージ選曲・監修・ミックスによる“ソウルの旅”。バーバラ・アックリンの「Am I The Same Girl」(一般的にはS.O.Sのカヴァーで有名、本誌読者にはフレディ・マクレガーか…)から調子よく始まるそのフライトは、ビギナーにとっても“入り易い”懇切丁寧でいて、かつブレイクもタイトに挿入しつつ、誰も知らない様な激レア音源も公開し、そして何より“音楽が光り輝いていたあの頃”を想像せずにはいられないワクワク感が詰まっている。ミュージック・メイカー=DLの含蓄あるセレクション&ミックスに酔う事必至。
10. TWIGY / The Legendary Mr.Clifton(Virgin)
最近のステージでもその変貌ぶりが確認出来たツイギーの通算3作目。今回は“ミスター・クリフトン”なるキャラクターを描いたトータル・コンセプト・アルバム。ツイギーのセルフ・プロデュース(つまり枯枝楽団)により、あの「このまま」(feat.椎名純平)や最新カットとなる名曲リメイク「Free」(feat.ユウ&キーコ)の他、バード、GKマーヤン、Q、マッカチン、D.Oら重要アイコンに、ツイギー自身のアナザー・アイデンティティと思しきウィギー・クリフトンが登場する壮大なスケールの本作は、多くの人の期待をいい意味で裏切る快作となっている。

11. V.A. / Chill Side 2(イドレコーズ)

昨年発足された“全国展開のヒップホップ・ショウケース”コンピの第二集。一都市集中ではなく、各地で培われたシーンより、アップカミングなアーティストをフック・アップし、クラブ・イヴェントとのパッケージで見せる、というこの“Chill Side”特有のディレクションは健在どころか、更にエリア/ネットワークを全国に拡げ、メルティング・ポットそのものの様相を呈している。北は札幌から群馬、埼玉、町田、横浜、名古屋、大阪、熊本からの精鋭達の熱き心はしかと伝わる好内容。DJワタライ作のイントロからじっくりと聴き込んで頂きたい。

12. V.A. / 思考回路(ポニー・キャニオン)

“少年犯罪”“環境問題”というシリアスで社会的なメインテーマの下に集まったアーティスト達によるコンピレーション。Mr.ドランクのトラックにクレヴァとウヂが乗る「Sun-City」に始まり、DS455との録音でも知られる大物=ギャングスタD-Xとセンターステージ、GMカズのトラックでのDZ-T、コーヘイ・ジャパン、そして三善善三とミネ神ホールドの各タッグや、ロック・ティー制作のイノセンス&ブッチャー、インスト&スクラッチ物ではアズーロ&ハシムB、といった魅力的なコラボがズラリ。確かに思考回路、神経系統が刺激される今迄にないタイプのコンピである。