1999年12月号

DJ TANKO / Tour De Groove (ピュアサンドウエスト)

昨年10周年を迎えたロウ・ダメージ(年末頃にはアルバムも!)のDJタンコ渾身のミックス・テープ。常日常から“ヒップホップは感覚”“メガ・ミックスこそヒップホップ”と口にしているキャリア約20年のタンコだけに、その内容は推して知るべし。UKヒップホップ好きから、エレクトロ〜オールドスクール・マニアまでが泣いて喜ぶセレクションで90分間異空間にトべる。各々のトラックの聴かせドコロを熟知した、ボーダレス・セレクションの銃の様なヘッズにこそ触れて欲しい一本。

ジュラシック5 / Quality Control (ユニバーサル)

今だフレッシュな感動を与えてくれるLAのヒップホップ馬鹿六人衆の97年の『E.P.』に続く、"イニンタースコープ" 移籍後初のフル・アルバム。チャーリー・ツナを筆頭に個性の際立つ4MCと、イルなトラック・メイカー=カット・ケミスト、DJヌーマークの捻り出すビートの数々は、純粋な意味でヒップホップそのもの。「Improvise」、「Quality Control」等、オールドスクールのNewな解釈とパーティとメッセージのバランスも抜群なトラックばかり。アルバムとしての密度も相当なモノ。恐れ入りました!

SLUM VILLAGE / Fantastic Volume II (ビクター)

ATCQを始め、数々のプロデュース・ワークでドクトクな“揺らぎ”さえ感じさせるトラックを提供してきたビート職人=ジェイ・ディー率いる地元デトロイトのユニット(当コーナーではシングル3枚紹介済)。ブートが散々出回った噂の初アルバムだが、やっぱり音質/音響設計が徹底している彼らの作品は“イイ音”で聴くベキ。バスタ、ピート・ロック、ディアンジェロ、ジャジー・ジェフ等ゲスト陣が突出しない程、ジェイ・ディーらしいアルバム。というか決定盤。死ぬ程気持ちいいベース&ドラム。J-88のシングルもヨロシク。

MR.COMPLEX / The Complex Catalog (クラウン)

DJスピナ、アパニ等とのユニット=ポリリズム・アディクツのリーダーとしても知られるライム・テクニシャン=ミスター・コンプレックス、遅咲きのデビュー・アルバム。その構成はオーガナイズド・コンフュージョンとの蜜月時代から、DJスピナ制作曲の中でもクラシック度の高い「Visualize」、『Cuts Of The Time Ver.2.3』にも使われた「Divine Intervention」や "ロウカス" からの「Stabbin' You」のリミックスまで、この6年間の足跡をバッチリ押さえたベスト的なもの。エモ&DLによるラジオ・スキットも効いたインディ魂を感じさせる逸品!

アンビヴァレンス / Electric Treatment(ソニー)

先月紹介したクリエイターズの自主銘柄からEPをリリースした経歴もある日本人クリエイター/ネタ師=アンビヴァレンスことヤノ・タカシ、待望のフル・アルバム。元トライブのファイフ(本誌インタビューをRewind!)参加の「Committed」に代表される様に、透明度と浮遊感でも一歩も二歩も先をゆくビートの数々はコンシークエンスやJライヴ・ラゼールといったマイク巧者の登場曲でも、インスト曲でもとくと味わえる。ユーモアとドープさのバランスもインテレクチュアルでセンスの良さが光る好盤。

ZEEBRA / Based On A True Story(フューチャー・ショック)

早くも凄まじい勢いで売れまくっているソロ第2作。「Zeebraも売れたからポップだ、とか言ってるPlayer Haters…よく聴いときな!」というフレーズが耳に突き刺さった向きも、先入観ヌキでこの圧倒的なまでも音と言葉の洪水を浴びてみて欲しい。ここにあるのは、USシーンの今の王道そのもののヒップホップ。つまり彼はJ-Popの主流に、リアルなヒップホップの血と汗を流し込んだのだ。それがウケる、という事は日本の音楽シーンに光明が差しているという証拠。レゲエ・ファンも心打たれるハズ!

DJ YAS / ライトDJ YAS / ライト (えん突つレコーディング)

絵流田先生、リノ・ラティーナIIをフィーチュアした「Across The Globe」(先にヤバい2曲を追加したマキシも!)、スーパー・ドープな日本物ミックス・テープ『Asian Promotion』も好評なDJヤス、ソロ名義での初アルバム。オール自作全10曲インストのビーツ物で、聴く者のイマジネーションを激しく掻き立てるモノばかり。トラックメイカーもまた雄弁なストーリーテラーに成りえる事がここに示されている。短編として接するも良し、長編として浸るのも良し、の秀作。

MURO / El Carnaval (トイズ・ファクトリー)

8月には公開となるフル・アルバムに先駆けてのマキシは、初の試みとなるラテン・トラック。DJムロがラテン、ブラジル方面にも手を汚しているコトはご存知だとは思うが、ここにはその成果が見事に実を結んでいる。生のスパニッシュ・ギターやコーラスにより鋭さを盛したファスト・フロウ。そしてリミックスは巴里代表トム&ジョイスのクール・ボッサ編。併録の「1154」はK.O.D.の王道とも言うべきドラマティック・ループで、"秘密の暗号" が説き明かされる。コチラは倫敦代表のコールドカットの大胆なコラージュ物。

ランチ・タイム・スピークス / Sono Otoko...(El Dorado)

シングル毎に着実な進歩を感じさせる "エルドラド" の成長株=ランチのNew。表題曲「Sono Otoko」は、音と男の出会いをリリカルに描いたストリートの文学、という趣でDJデンカのプロダクション・スキルの高さも思い知らされる "染みる" 一曲。裏曲の「Super DNA」は例のアポジー・モーターズ名義の轟音トラックで、次の世代へと本物ヒップホップ遺伝子を伝える、という壮大なテーマの曲。共に間違いナシ。次はフリック時代特急だ。

刃頭 / 最狂音術〜狂之零〜(P-ヴァイン)

どこまでも我が道を行くスタイルで、ヒップホップだけでなくレゲエ、ロック方面からも注目を集めている尾張名古屋のマーリィ・マール改め、オリジナル帯スタイルの刃頭が放つ世紀末三部作の第一章。いわゆるバウンス系とは一線を画す、超高速ズンドコ太鼓の冒頭曲から、あのマチャコをフィーチュアした年期の入ったレゲエ・ファンなら身体に馴染みのあるあのオケをエゲツなく料理した曲等、オビ=ワンもビックリのフォースの泡子トビまくりの全6曲。

ポチョムキン / ゲンゴJet -Coaster(東雲)

熊本代表=餓鬼レンジャーの韻気狂いポチョムキンの『Mad Maxx』参加曲に続く、ソロ作。音は全てネイチャー・ブラント(弦楽からプログラミングまでをボーダーレスにアレンジするユニット)の制作で、これまでとはまったく違う激しくもディープなサウンドで高揚するヴォーカル/デリヴァリーを聴かせてくれるところがミソ。タイトルにも如実な独自のゲンゴ感覚は、昨年の「B-Boy Park」のフリー・スタイル・バトルで猛威を振るった新鋭イルムラとの競演でも大爆発。とにかくフツーじゃないテンション。

フライング・プーパ / Werdz(ガンテツ)

ミスタ・ライヴ他、海外俊英MCとの共作でクオリティ重視の仕事師ぶりを見せつけてきたDJアンドー、とユージローのグローバル・プロジェクトのNew。今回見参したのはヒップホップG7の中には確実に位置づけられるカナダなトロントのソクラテス、チョクレアー、カージナル・オフィシャルらで「Werds」等いつにも増して太いビートに最適の人選と言えるだろう。二枚使いされる事を第一義としたストロング・トラックの連発に多くのDJ達が唸る姿は容易に想像出来る。