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308    ARTISTS    PUSHIM

Pushim / Renaissance
 
Text by Natsuki Toi / Photo by Akira Okimura (D-Code)
 

2年半ぶりとなるオリジナル・アルバムを完成させたシンガー、PUSHIM。“クイーン・オブ・ジャパニーズ・レゲエ”という肩書きすら窮屈に感じてしまうほどその視点、メッセージはよりグローバルに、普遍的な世界観へと広がり、サウンドもレゲエ・ミュージックという大海を自由自在に泳ぎきった様な、実にカラフル且つ包容力のある作品、それが『RENAISSANCE』だ。
 
「レゲエが好きですね」としみじみ、はばからず言い切るPUSHIM。ジャマイカン・ミュージックの魅力に完全に嵌まり込み、さらに奥へ奥へと深みにずんずんと突き進む彼女のこの最新の記録は、プロデューサー/エンジニア陣も徹底的に拘り、日本そしてジャマイカからそれぞれ完璧な布陣。しかも全曲自身も制作に関わり、作品全体に彼女の音域のごとく大きな振り幅を与えている。しかしそれでも、作品全体が実に安定しているのはやはりPUSHIMが真の歌姫たるゆえん。聴く者の一番奥にある暖かい気持ちを溶かし、溢れさせるような彼女の圧倒的な“バラード”が核としてずっしりと心に響くから。収録順に全15曲、PUSHIMの声も交えて紹介しよう。
 
1曲目はシンプルで印象的なイントロを生かすべく、曲順も迷わなかったという「RAINBOW」。 DJ HAZIME制作の美しいハイブリッド・サウンドと、虹の持つ沢山のイメージ、そしてPUSHIMの愛しい人を想う気持ちが結晶となったような、もはや説明不要の名曲だ。
 
「今回唯一の純粋なラヴ・ソングですね。誰かを好きになってそれが確信に変わった瞬間、心がスッキリと晴れた時のような、そんなイメージの曲です」
 
2曲目は「Monkey Man」(Toots & The Maytals)のオケがベースの、実にファンキーなスカ・サウンドで、音楽への愛を高らかに歌い上げる「LOVE THIS MUSIC」にAlong Side、JING TENG。
 
「彼は凄くユニークで、歌い手としても本当に素晴らしいし、ぜひ一緒にやりたいと思った時にこのオケやったら今までにない彼が見られるかなというのもあったし、期待通りとても楽しかったですね」
 
3曲目は異色チューンともいえる、精神的貧困について歌った「あすなろ〜Mental Poverty〜」
「いま娯楽は多くても、文化はどんどん薄くなっていて何を見ても聴いても“すげえ、やべえ”で終わっているのがもったいなくて。吸収力のある若い時こそ、本を読んだり、想像してみたり、何かをやり切ってみたり、色んな経験をして学んでいけば、すごく素敵な人間になれるよ、という思いを書いてみました」
 
Don Corleonお得意の哀愁系ワン・ドロップに、ホーンやピアノ音が加わりさらにドラマティックになっているサウンドとPUSHIMのメッセージが強烈に響く。
 
全ての女性への応援歌、4曲目の「My name is…」は、Tanya Stephens「These Street」をイメージしたという実にシンプルなメロディ。「ずっと一緒さ、強気のMy Heart」という歌詞に共感してしまう人も多いはず。
 
「私も含めて、“強くならなあかん”と思っている女の子は、実は弱いんですよね。意見をハッキリ言うから強そうと思われがちなんですが、何か言われるとすぐシュンとなっちゃう(笑)。色んな女の人がいてますけど、がんばっている女性は皆、美しいな、という曲ですね」
 
5、6曲目は“ジャマイカ人も躍らせたい”というPUSHIMのフック感が効いた抜群のダンス・チューン。
 
「『HEY BOY』は振り付けとかじゃなくて、ゆったりと腰を落として音に身をまかせて体を揺らすのもダンスホールのスタンダードとして若い人にも知って欲しくてできた曲で、『DANCEHALL RUN DI PLACE』はヤーディーな雰囲気たっぷりな踊れる曲なので、Spragga Benzに入って貰いました。Elephant Manだと曲が若くなりすぎるし、Beenie Manだとポップすぎるし、Sean Paulだと“いくら払ったん?”ってなるし(笑)。リリックも書いて渡してくれたんですけど“KIAGITE”って書いてあって、何かと思ったら“手を上げて”だったらしくて(笑)。ずいぶん寄り添ってくれたし、格好よく仕上がってると思います」
 
7曲目の「Bubbly」は、'80を意識したというピコピコしたシンセ音やエレキ・ギターが印象的なサウンドで、リリックにもその時代の死語などもあえて盛り込み、若さゆえの焦燥感を歌っている。
 
「青春時代の、ちょっとやり切れんモヤーっとした気持ちを歌ったら面白いかな、と思って。こんなブサイクな気持ちになったことあるでしょ?というようなね。“だから大丈夫、みんなこんなんやし”というのを伝えたくて」
 
続く8曲目「Oh, My Brand New View」はKon“MPC”Ken制作、往年のXterminatorを彷彿とさせる、実に爽快でメロディアスなサウンド。そこに乗せて歌われるのは、移ろいゆく時の中で離れてしまった大切な友への変わらない感謝とエール、そしてお互いに歩き続ける別々の旅路への、希望。だれもがそっと心にしまっている、大切な宝物をふと思い出させてくれる、そんな素敵なチューンだ。
 
9曲目はジャンルの枠を超えて、子供たちが合唱しているイメージで作ったというポップでキャッチーな「TEXT BOOK ONE」。
 
そして10曲目。「問題作?」と言って笑った「クラッシュ」は、Ryo the Skywalker、Papa Bを招いた口技冴えるマイクリレーで、「ホンモノとは何か?」を問いかける。
 
「ラバダブっぽく本当に思うことを言い合うようなイメージで。要は目の前にあることが全てじゃないねん、レゲエだけじゃなくて音楽でも絵画でも本でもそうですけど、奥に入り込んで突き詰めていくともっともっとリアルで面白いものがいっぱいあるし、そうやって自分を高めていくのはすごくいいことやで、というのが伝えたかったんですよね。Nelly(プロデューサー)の最先端ながらジャマイカの流行路線とはディファレントでトリッキーなこのオケに巧みに乗れたら面白いな、と思ったときにこのテーマでやりたいな、と」
 
11曲目は久々の失恋の歌で、タイトルが「Killa」というのがまた彼女ならではの表現だ。トラックは「I Wanna Know You」と同じ制作陣、Sly DunbarとLenky、そしてPUSHIM。今回もストリングス音などが効果的な、とてもシャレたサウンドに仕上がっている。
 
そして12曲目はガラリと変わってウェディング・ソングと言っても過言ではない「So Much In Love」の極上カヴァー。ファースト・アルバムから確かな絆を築いているDean Fraserの冴えたディレクションと蜂蜜のようなサックスの音色が最高にメロウなロック・ステディ調のチューンだ。もともと大好きな曲だったというけれど、もしかして結婚……??
 
「ミックスをしてくれたFattaにも“PUSHIM、シリアスじゃないかい?”なんて言われましたが、まだですよ(笑)。でもそういうシーンで使ってくれたら嬉しいですよね」
 
ダンスホール・ファンは意外と見過ごしがちな硬派なルーツ・レゲエ・サウンドでグイグイと引っぱり、今年の夏フェスでも大いに盛り上がった「SURVIVAL FUTURE」が13曲目。
 
そして、表題にもなっている現在のPUSHIMの集大成ともいえるスケール感のある傑作「ルネサンス」。この曲の誕生は、世界で起こっている圧倒的な天災や悲惨な戦争の事実をTVの前で知る私たち誰もが感じる無力感に、PUSHIMも同じく襲われたからとか。なにができるんやろ?と。恵まれ過ぎている私達は、“何か”をしなくても生きてはいける。でも…
 
「なんでもかんでも無関心が、すごくこう自分の為にもならへんというかね。作り物の映画には感動するのに、事実として世界のどこかで起こっていることには何も感じひんなんておかしい。たとえば戦争もそうだし、見渡せば身内の中でも誰かの小さな憎しみが連鎖して、大きな憎しみに変わってずっと広がっていたりする。だったら、何もできなくても、もう一つ先の人たちを愛していこう、とか。“愛する”って恋愛だけじゃなくて誰かを好きになって、その人の事を考えたり、優しくなれたりすることで、そういういうことが一番大切なんかも、と。心って痛かったり嬉しかったり、揉んでもんで豊かになるものやから」
 
在日韓国人である彼女は、日本での選挙権がない。ライヴで彼女は「選挙に行くという地道なことでも、何かが変わるかもしれへんよ」と私たちに語りかけた。そんなPUSHIMの切実な“祈り”とも言える想いが、聴くものの心を揺さぶるのかもしれない。
 
最終曲のエピローグとも言える「虹のあと」は、「ルネサンス(復興、再生)」からの静かな夜明けを思い起こさせるような、雨上がりの水の珠のように、心に美しい余韻を残した。

『RENAISSANCE』。聴けば聴くほど聴きたくなる、万華鏡のような素敵なアルバムです。
 
[ALBUM]

"Renaissance"
Pushim
初回限定盤(特典DVD付き)
[Ki/oon / KSCL-1326〜1327]
通常盤
[Ki/oon / KSCL-1328]


[SINGLE]

"ルネサンス"
Pushim
[Ki/oon / KSCL-1319]

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