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いとうせいこう / The Mic won't be put
 
Interview by Yutaman / Photo by Great the Kabukicho
 

80年代に『建設的』や『MESS/AGE』といった後世に伝えるべき名盤を生み出すなどラッパーとしても積極的に活動していたいとうせいこう。その後も様々な分野を開拓し続けている彼だが、ここ1〜2年、再びマイクを握る比重が高まっている。彼に再びマイクを握らせたものは何だったのだろうか。
 
●音楽活動が、ここ最近顕著に増えていますね。
いとうせいこう(以下S):そうだね、異常な拡大をみせてるよ。
 
●それは御自分でもそういう認識?
S:一番最初に上手くパンドラの箱を開けたな、と思うけど、スーパー・バター・ドッグの池田貴文が「“レキシ”を一緒にやりましょう」って言ってきて。レキシは日本史のことしか歌わないファンク・バンドみたいな感じで、客がガンガン盛り上がるの。「源!」って言えば「頼朝!」とかさ、コール&レスポンス自体もおかしなことになってて、どこに行っても、2曲ぐらいやるとレキシがかっさらっちゃう(笑)。機材も簡単で「すっげえこのバンドいい」ってことで、オレはかねがねレキシに入りたいと思ってたわけ。その時に『熱血スペシャ中学』(以下『スペ中』)って番組をミュージシャンの子達とずっとやってて、その池田はそこで4年間ずーっと一緒にいたんだけど、池田のオレを復活させる企みが上手かったんじゃないかと思う。それでレコーディングに行ったらトラックがあって、鎌倉幕府についてのウンチクが全部韻を踏んでるみたいなふざけた歌詞書いて、レコーディング久しぶりなのにツルっと入っちゃうわけ。2発目録る必要が自分でも感じられないくらいだったけど「まあ一応もう一回くらいやっとくわ」って、それでも10分くらいで終わっちゃって。その時「ああ、レコーディングって楽しいなあ」って久々に思ったんだよね(『レキシ』収録「レキシ・ブランニューデイ」)。
 
●いきなり一発録り?
S:オレは常に一発が好きで、ナレーションやCMでも「とにかく録っちゃってくれないかな?」っていう。それでレキシに関しては、野音とかでスーパー・バター・ドッグの前座とかに出て3曲ぐらいやって、客をガンガンに盛り上げて帰るみたいなライブもやったわけ。そうすると「ライブも楽しいじゃん!」ってなるじゃん。そうすると、ライムスターの宇多丸なんかが楽屋に来て「レキシ面白そうじゃないですか」、「お前も出ろよ」って、いきなりあいつ出しちゃってやってみると、気持ちとして現役のラッパーとのセッションになるじゃん。「こんなに音楽が楽しくていいんだろうか」って思ってたら、すぐに□□□(クチロロ)からも誘われて「ああ、いいよー!」みたいな(『Golden Love』収録「おばけ次元 by OBK」)。だって音楽楽しいから(笑)。DJ BAKUにも呼ばれてやるし(『Dharma Dance』収録「Dharma」)、ポメラニアンズは「一緒にアルバム作りましょう」なんて話になったり(『カザアナ』)、アイゴンとミニ・アルバム『Just A Robber 1』作ったり、今あがってきたばかりの真心ブラザーズもあったり(『俺たちは真心だ!』収録「M.C. Sakuの今夜はラップでパーティー」)。
 
●そもそも池田さんには、せいこうさんを復活させようという思惑があったんでしょうか?
S:オレはあったと思う。その『スペ中』で集まったミュージシャン達は未だにオレを「先生」って呼んでくれて、ホントにプライベートな部分まで入り込んでるわけ。何年も正月は20〜30人みんな呼んでその彼女達まで来て、花火、花見、クリスマスに集まるファミリーみたいで、それで全員音楽やってるわけじゃない? そこでオレも「表現とはこうだ!」とか偉そうなこと言ってるんだけど、「やってないじゃん!」みたいなことが、オレの中にはあって。やってないから「ちょっと恥ずかしいな」って気持ちがずっとあるところを、池田は「つかえる、今ならいけるんじゃないか」と思ったんじゃないかな。
 
●みなさん、昔のラッパーとしてのせいこうさんを御存知なんでしょうか?
S:知ってる人と知らない人といますね。BAKUなんかは前の仕事は知らなかったし、まだリリースされてないけどMCUともラップ合戦みたいなのを一曲やった。しかも昔の曲「マイク一本」を「マイク二本」にして、まだ全然出ないんだけど、MCUはオレがヤン(富田)さんとライブをやってた頃、そこにいたくちだから、もの凄く知ってるの。
 
●まさに「オレが『マイク二本』できるなんて!」みたいなことですね。
S:そう、「ガチガチにカタまってます」、「お前がかよ!(笑)」みたいな。だから色んな人達が色んなアプローチをしてくれていることが、面白い。
 
●レキシへの参加はいつ頃?
S:去年ぐらいのリリースじゃないか? だから昨日今日みたいな話なんだよ。そこからブオーっとやってるわけ。
 
●今年の代々木公園「アース・デイ」での“演説”は?
S:ポメラニアンズのリリースはまだだけど、もう録り終わってる状態だったかな。
 
●すでに音楽家としてのせいこうさんが、かなり活性化されている頃ですね。
S:あれは(高木)完ちゃんとダブマスターXが来てくれて、そこにBAKUがいてスクラッチして、自分は座って、演説が始まるわけ。自分にとってはどうなるかわからないっていう、もう、最高の気持ち良さですよ。演説も書いてきてるけど、どこを読んでもかまわないわけだし、自分の本も持ってきてるから音楽に合わせてどこを朗読してもいいんだけど、それをやってたら今まで自分が熱狂的に聴いてきたパキスタンのカッワーリとか、「浄瑠璃のあの名人ならここで唸るよね!」とか、「当然こうくるでしょ!」とか、そういうのが全部出ちゃって(この時の音源はいとうせいこう+DJ BAKU「Free Burma」と題し12”盤でリリースされている)。
 
●せいこうさんの中で音楽と演説は差別化されている?
S:これは後から気がついたことなんだけど、ヒップホップ活動の中での僕の担当は“日本語”の“ラップ”ですよね。これについて、やっていない期間も結局何か考えてたんだよね。だって義太夫節のお師匠さんに弟子入りしてみたり、小唄は10何年習ってるし、ずーっと「言う」ってどういうことみたいなことを、考えてるわけ。ラップの歴史で辿ればたかだか15年か20年しか日本語のラップの歴史はないが、日本語を使って人の心を動かすってことで言えば、少なくとも明治維新以降自由民権運動から何から全部やってると。右翼も左翼もやってきて、三島由紀夫もやったと。オレはその延長線上にいるんだってことに気付いちゃったわけ。だから、オレの今の認識はもう、演説の歴史の中にラップがあったってくらいだよ。そうなると、オレの演説にはまだ若いものは敵わないと思う(笑)、認識が違うから。
 
●『建設的』や『MESS/AGE』の頃から、“「言うこと」と「社会」に接点を持たせる”行為はなさっていた気がします。
S:意識はずっとありましたけど、言ってみたら最近は“具体的なことに関与する”ってことを始めたってことじゃないでしょうか。
 
●最近ではビルマに対しての運動がありますね。
S:あれは「たまたま」で、たまたまテレビでお坊さんが殴られてるのを観てカッチーン!と「絶対許せない!」って思っただけなんだよ。
 
●今、世界中で例えばアフガニスタンやグルジアや、他にも酷い事例はたくさんあるじゃないですか? その中でなぜビルマだったのかな、と。
S:たぶんアフガニスタンの時もカチンときてるから、大阪のマカオってディスコでやってはいるけど、たまたま注目されなかっただけで、オレはちょこちょこなんかやってるわけ。ビルマの時は“ブログ”という、今までと違うメディアがオレの手の中にあった(http://profile.ameba.jp/seikoito/)。それで「おかしいじゃないか」ってことをしつこく書いてたらレスがつき始めて、そのレスがある時論争みたいにもなり「(ミャンマー軍事政権に抗議する)Tシャツを作ろう」って呼びかけたんだよ。オレはそういう時、何の計画もないよ。むしろ「何の計画もございません」ってことを載せた。だから「助けてください」って。それがインターネット時代の核心をついたことになった。「家の4畳半が空いてるから在庫を置ける」、「Tシャツ屋なら安いとこ知ってる」とか、全国からみんなが参加してくれてオレは感動しまくりだよね。そしたらアンダーカバーのジョニオが連絡してきて、こっちは「もう是非」みたいな。いまだにオレはジョニオと20何年前に会ったっきり会ってなくて、電話もなくてメールだけ。あいつも格好いいんだよ、Tシャツ終わったら何の連絡もしてこないしさ、その時期何回かメールでやり取りしたけど「会いましょう」も何もないし、オレもそれでいいと思ってるし、もうジョニオの熱い魂には触れたから「わかってるぜ!」って感じ。
 
●いつも動き出す時、躊躇はない?
S:一時は自分が信じられない時もありました。30歳から40歳に至るまで、「なんか世の中が見通せないな」、「昔よく見えてたつもりだったのに、なんでこんなに見えないんだろう」とか、それは見えないのが当り前ってことに気付かなくなってたんだよね。自分が世の中見通せるって間違えてしまっていた。眼の前五里霧中が当り前、歩く方に一歩踏み出す以外にないわけだよね。そういうことがわかったらスコーンと楽になったし、その場で何をやったらいいかに関して少なくとも自信があるから、自信ありげにやると人は説得されてくるよね(笑)。あらかじめ考えたことって新鮮じゃないから、わかっちゃったら考えちゃう可能性があるから。
 
●新鮮さが大事?
S:大事でしょう。オレは特に同じことを2度言えないタチだから、リハでやったらもう同じことは恥ずかしくて言えないんですよ。何で恥ずかしいのかよくわかんないんだけど、その性格がもう究極まで来ちゃって、CMの収録でもいきなり絵に合わせて「多分ディレクターはここでこう言わせたいはずだ」、「ここだな!」って時に15秒で言うと、一番最初が一番ハマるんだよね。その時に「生きてて良かった!」って思うんだよ。アドリブが完キマリした時の快感たらないね。
 
●ヒップホップがそのまま体質のような。
S:フリースタイル体質なんだよ、元から(笑)。
 
●ヒップホップとは出会うべくして出会った?
S:ヒップホップが迎えに来てくれたんだよ。ダブちゃん(ダブマスターX)とヒップホップで地方回ってる時もさ、リハしないわけじゃん? その時のバックトラックを聴かされもしないわけ。「いとうせいこう!」とか言われて「イェー!」とか出て行って、スクラッチで「ジキジキジキ」はわかるけどその後のBPMも何もわかんなくて、そこで聴いて「あ、これか」なんてやってるわけ。針が飛んだら飛んだなりに黙って、「これぐらいで入るだろう」と思うと、ダブちゃんも上モノをちゃんと乗せたりして、そういうカードの切り合いで営業してきたから。
 
●ダブマスターXさんもすごいフリースタイル体質なんですね。
S:そう、ああみえてやっぱりフリースタイル体質(笑)。
 
●ダブもつまるところフリースタイルですよね。
S:そうそう、同じダブはないんだから。今ポメラニアンズはすごいいい状態になっていて、何曲かに一回ずつ「ここからはフリー」ってところが必ずあるわけ。全身全霊で演奏してどこで戻るか誰もわからない。ましてやどこにダブがかかるか誰もわからないから、全員がすごい耳を澄まして「うわ、このスネア!」って思た時にズコーンとダブがかかると、シビれるもんね。「やっぱここでツマミまわしたか!」みたいな、しばらく黙って無音だもんね、みんなダブ聴いてて。
 
●せいこうさんにとってダブってどう位置付けているのですか?
S:近畿大学で今年から教えることになって、19とか20歳の子にヒップホップの素としてのダブみたいなことを教えるんですが、自分で気付いたことがあって、ダブってエンジニアの音楽じゃないですか。ミュージシャンが特権的だった時代に、エンジニアっていう中間にいる人が音楽を支配するという大革命が起きたじゃないですか。そのダブがあったから、DJがヒップホップを創れたんですよね。ダブが無かったら「DJなんてミュージシャンじゃねーじゃねーか」で終わってて、そう思うと、ヒップホップをやってる人間はダブから考え直さないとヒップホップがわかんないってことがすごいわかって。だから元々ダブ・ミュージックが好きだったことを突き詰めているのは、とっても自分としては意味がある。「なんでこれが気持ちいいんだろう?」って思うことが、アウトプットとしてヒップホップに還ってくることは当然で、ダブ・サウンドをもの凄くキャッチーなかたちで人々に届けることもやりたいわけ。
 
●そう言えば、せいこうさんのこの音楽的盛り上がりの前にナイーヴス(『フォーエバー・ヤン ミュージック・ミーム2』)がありましたね。
S:そう、レキシがあって、ナイーヴスがあった。でかいわけ。レキシはもの凄いエンターテイメントをやったわけだよ。ナイーヴスでは昔からずーっと知ってた人達と前衛に近いことをやれたから、この振り幅さえ2つ経験しておいたら後はいけるでしょ? ヤンさんも変な話じゃない「『だいじょうぶ』歌ってくれ」とか「なんで20年も前の歌を歌わせるんだろう?」と思ったけど、またリハーサルしないで(笑)、急に生ギターで弾き出してさ、諸先輩方にそんな風に鍛えられて。

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