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306    ARTISTS    LEE EVERTON

LEE EVERTON
INNER EXILE
 
Text by Hajime Oishi
 

それまでまったくの無名だったものの、今年2月にリリースされたファースト・アルバム『Inner Exile』が輸入盤の段階で注目を集め、このたび同作が日本盤化されることになったリー・エヴァートン。シンプル&レイドバックした注目新人の経歴をチェックしてみよう。
 
 スイス・チューリッヒ出身、ジャマイカでの長期滞在を経て、NYのスタジオに勤務。紆余曲折を経て、このたびデビュー作『Inner Exile』が日本盤化——リー・エヴァートンは、ちょっと変わった経歴の持ち主と言えるかもしれない。だが、『Inner Exile』の内容は至ってシンプルなメロウ・レゲエ。ジャック・ジョンソンらサーフ系アーティストともカブる、ゆったりとしたレイドバック・サウンドだ。リリックも英語だし、「カリフォルニアの新人レゲエ・シンガーのアルバム」と言われれば信じてしまいそう。
 
 幼い頃からピアノなどの楽器に親しんでいたリーがジャマイカに渡ったのは、彼が18歳の時。それまでにレゲエの虜になっていたというが、渡ジャマの理由について「一番の理由は何か新しい世界を見てみたいっていうことだったんだ。旅をして、別の国を見てみたいって思ったんだよね」と話す。現地ではキングストンの音楽学校に通う傍ら、フランス語の講師もしていたそうだが、1年間の後、リーはNYへと移住。アシスタント・エンジニアとしてスタジオに勤務していたという。そうした絶えまない移動のなかで彼はシンガーとしての活動も継続し、2008年初頭にはようやく『Inner Exile』のリリースに辿り着くわけだ。
 
 そんな彼は、レゲエにハマったきっかけについてこう話す。
 「レゲエを聴き始めた時、なんでこの音楽はこんなにシンプルなのに自分の心をこれほど深く打つんだろう?って、ある種困惑したんだ。それは僕にとって大きな変化をもたらした。ただ単にシンプルだっていうことではなくて……自分のやってる音楽に正直であるところ、そしてもちろんそのリズムの部分だね」
 
 リーは、「僕がやっているのは、いわゆるクラシックなレゲエではないからね。自分の直感に従っただけなんだ」とも。事実、『Inner Exile』からはフォークやカントリーの牧歌的な雰囲気も漂ってくる。バーニング・スピア「Slavery Days」にインスパイアされたという「King Vapor」がある一方で、ボブ・ディランにも影響を与えた反体制フォーク・シンガー、ウディ・ガスリー「I Ain't Got No Home」のカヴァーもあって(もう1曲の素晴らしいカヴァーが、サム・クックの「Bring It On Home To Me」)、その懐はかなり深い。
 
 「僕はソウルやフォークからの影響を受けているからね。それと、実際のところ、僕とよく比較されるアーティストが僕のフェィヴァリットだったりするんだ。例えば、僕はボブ・ディランやヴァン・モリソンとよく比べられるんだけど、この2人は僕の本当に大好きなシンガー・ソングライターなんだよね。ミュージシャンというのはある意味自由にやりたいことをできないといけないと思うんだけど、彼らは自分独自のスタイルを持っているし、そういうところが大好きなんだ」
  
 『Inner Exile』には、人々の出会いや別れ、そしてそこから生まれるちょっとした心の揺れが丁寧に描かれている。数曲のラヴ・ソングもカジュアルでチャーミング。交通事故で大怪我を負ったことで自身の表現を見つめ直したことから、現在の作風に辿り着いたというリー。『Inner Exile』は決して派手な作品ではないが、誰もが抱える心の痛みやちょっとした日常の喜びをさりげなく綴るこんなレゲエ・アルバムがあってもいいと思う。



"Inner Exile"
Lee Everton
[Victor / VICP64192]

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