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Unmissable Story extra pieces from Ruffn' Tuff vol.8
Owen Brown

 
Interview by Shizuo "EC" Ishii / Translated by Mizuho Takahashi / Photo by Masataka Ishida
 

 好評の当コーナー、今回は前号に続いてラジオのディスク・ジョッキー、オーウェン“OB”ブラウンの登場。ジャマイカン・ミュージックを愛し、音楽ビジネスの裏を知り尽くしたOBならではの発言は貴重なものだ。
 
レゲエは誕生以来、ジャマイカの内外で変わらない地位を保っているが、スカとロックステディは少し違った道を歩んでいる。率直に話そう。ジャマイカの中ではロックステディは確かにライヴでは人気のあるジャンルだが、ラジオやクラブでのオンエア率は決して高くない。どちらかと言えば特別なシチュエーションで聞く音楽になっている。例えばFab5のような大御所バンドのショウに行けばロックステディのナンバーは数曲聞けるかもしれないね。でも、ラジオでのオンエアは殆どない。ラジオでは旬のもの、今ならレゲエにダンスホールにオーセンティックなルーツ・ロック・レゲエが大多数だ。無視している訳ではないんだ。スカやロックステディの時代のアーティストだってショウをやっているし、「ハイネケン・スター・タイム」みたいに長く続いているライヴ・シリーズも、もちろんある。
 
スカ・オンリーのライヴは現在のところ皆無だね。スカはラジオでも、まずそうそう流れない。例えばバンドが40分演奏するとしたら、途中で5分位はスカをやるかもしれないという程度のものになっている。もし、私が今日、あるバンドのショウを観に行って、そのバンドが30分間フルにスカを演奏したら、もの凄く驚くだろうね。個人的にはスカは好きだし、素晴らしい音楽だが、残念ながら、今のバンドが好んで演奏するジャンルではない。
 
スカは聞けばすぐにジャマイカ音楽の基礎だと分る音楽だ。どのアーティストに聞いても、DJだろうとシンガーだろうとルーツ・ロックをやっている連中だろうと、みんな、ジャマイカの音楽は全てそこから始まったと言うだろう。先達にも敬意を払う。でも、だからといって、彼らがステージでスカを演る訳じゃない。今、若いDJがボブ・マーリーやジミー・クリフやバーニング・スピアの曲を歌うのを聞いても仕方ないだろう? だが、彼らはステージでボブ・マーリーらの音楽が自分の土台にあるという事は話す。スカやロックステディもそれと同じなんだ。耳にすれば、国歌斉唱の時のように一斉に立ち上がって、胸に手を当てて、全員が「その通り、我々はここから来た」と言うよ。でも、自分では演奏しないし歌わない。その音楽が流れれば嫌でも体が動くかもしれないが、もう、その音楽一色という状況はあり得ない。ラジオを聴けば、数曲は耳にするかもしれない。しかし今の主流は間違いなくルーツ・ロックとダンスホールだ。
 
*    *    *
 
最後にプロダクションとラジオの関係、それから島の市場について少し話そう。
 
ジャマイカでは、アメリカのレコード会社の流通元やレコーディング・スタジオがラジオに時間帯を持っていた時代が確かにあった。自分の所のレコードだけを確実にオンエアし、宣伝するのが目的だ。シアガにバイロン・リー。トレジャー・アイルもロイド・マタドールもハリーJもスタジオ・ワンも、ヒットがたくさん出て金銭的な余裕が生まれると、更に売り上げを伸ばすためにラジオの時間帯を買ったものだ。当時はそれが比較的簡単にできた。プロダクションの数も限られていたし、ラジオ局も二つしかなかったからね。
 
ラジオ・スロット(こま)は電波に自前の商品を独占的に乗せるために存在していた。レコードを制作する以上、プロデューサーは当り前に、リリースするだけではなく、できるだけ多くの島中の人に聞いてもらい、実際に買って欲しいと思うからね。彼らにはこの島の中で一枚でも多くレコードを売る必要があった。当時はジャマイカ音楽の市場そのものが小さくて、今のように日本、イギリス、アメリカと広範囲に及ぶ市場があった訳じゃない。確かに当時もイギリスやアメリカに商品は流通していたが、今ほど大規模ではない。あくまでもマーケットの主流はこの島の中だった。今とは比べ物にならない数のレコードが島の中だけで売れていたんだよ。
 
現在はそのマーケット地図もすっかり変わった。もはやアーティストもプロデューサーもジャマイカ市場をターゲットにして音源を制作しているとは限らない。誤解してほしくないが、ジャマイカ市場はレゲエ産業全体にとって重要な意味がある。彼らも当然、ジャマイカ市場でも売れるように努力はしている。しかし、ジャマイカで売れるレコードの数は微々たるもので、利益の点から見れば魅力がない。誰もが日本、イギリス、そしてカナダとアメリカを含む北米市場に主眼を置いている。そこを足がかりにヨーロッパに進出を図るんだ。だいたい、日本、イギリス、北米市場で、そこそこ売れたものは他の市場でも売れるからね。こういう状況下では、ジャマイカで無理やり電波を買って商品の宣伝をする必要がない。
 
繰り返しになるが、彼らはジャマイカ市場を軽視している訳ではないよ。今でも多くのプロダクションはジャマイカ市場を「判断の基準」として利用している。例えば世界市場で大きなヒットを出したショーン・ポールがいるだろう? 彼はまず、ここでNo.1ヒットを出した。それが直接の儲けになったとは思えないが、ジャマイカ市場での成功が彼をより大きな市場へと押し出したのは間違いない。同じ事が少し前のシャギーにも言える。ジャマイカの外の世界はジャマイカでのジャッジを参考にしようと常にここの市場に注目している。大抵の人は「レゲエに関しては、ジャマイカ人が良いと言ったものなら、良いに違いない」と思っているからね。それがここの市場の現在の役割だ。
 
そうだ。いい例が一つあるよ。ジミー・クリフだ。彼は世界市場へ進出したジャマイカ人の象徴ではある。ところがジャマイカでの評価はなぜか高くなかった。長い間、ジャマイカでショウをやらなかったから、ジャマイカの人、特に若い連中は評価のしようがなかったのかもしれない。ところが、2004年、トニー・レベルが「Rebel Solute」という自分のショウにジミー・クリフを招待した。ジミーがジャマイカで本格的なステージ・ショウをやるのは、恐らく15年ぶり位だったろう。彼はジャマイカでももちろんヒット曲はあったが、ボブ・マーリー、バーニング・スピア、デニス・ブラウンのようには受けいれられてはいなかった。彼らほど厚いリスペクトも受けていなかった。ところが、そのショウに登場したジミーを見た若い連中が「これは凄い!」と騒ぎ始めたんだ。以来、ジミーは、ジャマイカではボブ・マーリーに近い評価と尊敬を得ている。
 
今、ジミーにインタヴューをしたら、「ジャマイカでアーティストとして認められた事を光栄に感じる」と答えるかもしれないね。多分、これまでニューヨークや日本で同じような反応を観客からされるより、ずっとずっと嬉しかったと思うよ。まぁ、私達が世界で評価されて得意になるほどに彼がここで意気が上がったとは思わないけれど。それでも、間違いなく、ジャマイカの人達がジミー・クリフに触れて、感動し、彼を愛し、支持するようになった。これを機会に全く新しいジミーに生まれ変わるかもしれない。若い世代が彼の曲を聞きたがっている。それが彼を再び何かに目覚めるかもしれない。こういうことが起こるから、ジャマイカの市場は絶対に過小評価できないんだ。
 
 
■DVD
「Ruffn' Tuff 〜 Founders of The Immortal Riddim」DVD
監督:石井 "EC" 志津男
[Dex Entertainment / DXDS-0064]


  
■CD
「Ruffn' Tuff 〜 Founders of The Immortal Riddim」
O.S.T.

[Overheat / OVE-0100]
¥2,625(tax in)カリプソ、スカ、レゲエなど全16曲のベスト・セレクション。

 
■BOOK
「Ruffn' Tuff:ジャマイカン・ミュージックの創造者たち」
監修:石井“EC”志津男
A5判/192ページ

リットーミュージック¥1,890(tax in)

出演者の中から13名のインタヴュー+石井、石田、落合のエッセイ集。

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